[ 第20回 学園靴隠し殺人事件 File1 (1) ]

悪魔との戦いのせいて怪我が耐えず、ユウギはエンジェルとなってからは病欠が多い。
もちろん本場・綾波レイよりは数段マシな健康状態だが、ゆゆしき事態である。高校まで修了しているし、勉強についていけない〜とか、成績が〜とか、そういう面では問題ない。

しかしあくまでユウギは神の手先。あくまでも極秘任務中なのだ。いくら病弱設定にするとしても、目を付けられるのはヤバイ。

『武藤さん、最近あまり学校にて来ませんね。欠席理由は腹痛となっていますが・・・』

「すみませんすみません」

『はっ!?  ―――もしや、腹痛と称して自分の殻に閉じこもろうとしているのでは!?・・・もしもの時のために心中リストに加えておきましょう。
 私はそういう消極的な子は好きですよ。先生、贔屓しちゃおっかな〜』

「糸色先生、困ります」

切って捨てたユウギ。一呼吸だけ間をおいて、「死んでやるううぅ」とガタガタやってる様子が受話器から伝わってきた。満身創痍で心まで疲弊している時にこんな面倒くさい教師を相手してられねーよ。

しかし極秘エージェントが集団生活で目立ったり、あげく
 みんな武藤を待ってるぞ
 マネの癖にいつまでも居ないとかありえないでしょ。さっさと来なよ。後、この前席替えしてまた俺の隣だから。
 なに言ってんの馬鹿じゃないの?咬み殺すよ
 は?意味わかんないんだけど。つーかこれ寄せ書きだから。なに俺宛に書いてんの?馬鹿なの?
 咬み殺す(何かの跡 たぶん血痕)
 マジ痛いんだけど。アンタ、まだまだだね死ね彩並
 死ね越前
 いやアンタが死ね彩並
 いいや君が死ね越前
 ↑嫉妬乙www
 ファイトだにゃ〜!
 早く良くなってね。快気祝いには、寿司たべにおいでよ。

だとか、テニス部から寄せ書きを貰って感動して涙しているのはどうだろう?
――と、いまさら気付いた。(糸色の回想は特に関係ない)



 [ 第20回 学園靴隠し殺人事件 File1 (2) ]

ユウギは女の子にしてみればひどい怪我だったが、自宅療養で済んだのは不幸中の幸いだった。一応大事をとって休んだものの、これ以上休むわけにはいかないのだ。とっとと治さなければ。

そう思うと、ユウギが彼――もう一人の自分を仲間にできたことは大きな収穫だった。
何しろ、身体を代わりに動かしてくれる存在が居るのだ。 痛い思いをする時間も半減。しんどいのも半減。しかし何よりの収穫は、長い長い療養生活の暇つぶしに相手を得たことだろう。

ユウギと彼は、M&W(マジックアンドウィザーズ)というトレーディングカードにハマっていた。
獏良のお見舞いの品としてカードを大漁に貰ったのだ。

「僕、オカルトデッキ作ってるんだ。だからいらないのあげるね〜」

―――というか押し付けられたのだが、ここは素直に感謝だ。何しろ出来がよく、絵も綺麗で、遊び方も奥深い。そして輸入品とくれば安いはずがなかった。

そう、どうやらアメリカで大流行していたものが今、日本で大人も巻き込んでの大流行なのだ。
以前、ユウギはアメリカに住んでいた弟から「アメリカではM&Wのプロもいるんだ〜」という話も聞いていたので、ちょっと流行先取り気分だ。

デッキを心の部屋に持ち込んで、肉体を休めつつ今日も暇つぶし。
はじめ、ユウギはずっともう一人のユウギを自分の都合につき合わせて悪い気がしていた。しかし実は彼の方がこのゲームを気に入っているようで、暇ができればすぐ勝負を仕掛けてくる。もちろん、これだけでは飽きるのでデッキを改造したり、他の遊びをしたりもしているのだが。

「プレイヤーにダイレクトアタック!」

「あぁー・・・。 もー、また負けた!」

「詰めが甘いぜ」

「ちぇー・・・『海馬のとこのオモチャなんかじゃ絶対遊ばないぜ!』とか言ってた癖に・・・」

「さぁ?どうだったかな」

ふふんと勝ち誇ったように笑う、もう一人のユウギ。ユウギの今日のスコアは・・・いつもどおり、とだけ言っておこう。

一緒に生活して見れば分かるが、とにかく彼は、何事にも手を抜かない主義らしい。ゲームにすら手加減した試しがない。そういう性格といえばしょうがないのだが、ユウギは助かる反面、彼が無理してないか少し心配だった。

「海馬コーポレーションはインダストリアル・イリュージョン社からM&Wを委託販売してるようなもんだろ?カードに罪はないぜ!」

(それも最初に私が言ったのにー! ・・・い、いかんいかん。私はお姉さんなんだから!これくらい軽く流せるんだからね!)

そう、自分はなんてったってもう大学生!・・・になるはずだった薄幸の乙女である。少なくともこの身体の中においては自分は先輩。同じ顔したオコチャマとは違うのよ?You see?

「もっかいやろ!もっかい!」

「その挑戦、受けて立つぜ!!」

しかしイーッ!顔でぴょんこぴょんこ跳ねている姿はどう見ても義務教育です本当にありがとうございました。

新しく組んでいたらしいデッキを取り出した拍子に、ひらりともう一人のユウギのポケットからカードが落ちてきた。ユウギは、まさかイカサマ!?と身構えてシュバッと拾い上げる。

「ん? なぁにこれぇ・・・」

ウラの柄は他のカードとは違った。トラップカードでも、マジックカードでも、ドロー!モンスターカード!でもない。絵もカードの効果も書かれていない。あるのは綺麗にレイアウトされた文字だけだった。

「海馬ランド新アトラクション『DEATH−T』・・・死のテーマパーク?」

「どうやら、その催しの招待状らしいな。 ・・・・悪い。隠しているつもりはなかったんだが・・・すっかり忘れてたぜ」

和解してから、彼は少し丸くなった気がする。良い傾向だ。ユウギは素直に謝るもう一人の自分に顔をほころばせた。

「でもさ。どう考えても罠だよね、これは・・・」

「それは行ってみなきゃ分からないが・・・ まあ、スルーしてもいいんじゃないか?わざわざ突っ込んでいくことはないと俺は思うがな。
 神に頼まれたのは、悪魔から人々と千年パズルを護ることだ。悪魔を根絶やしにするのが、お前の役目じゃないだろ?」

「私の役目・・・」

目からウロコである。
確かに、ユウギには行く義務は無いのだ。

考えてみれば、ユウギの使命はブレブレだった。借金のカタとしてなし崩し的にエンジェルになったのだし、青春学園への潜入も、現場への急行も何もかも、よく考えれば全て成り行き任せ。ジャーキー任せだった。
そしてそのジャーキーとは普段連絡も取れず、ここぞというときに電話が来るだけだ。

ユウギは、それでも運命のコールに助けられたことは多々あるのだが、命を懸けて戦うには「それなりの理由」がなければ納得できない。今回、これほどボッコボコにされたわけだし。

「何にせよ、今は怪我を治すことに専念しないか。いざという時に怪我で動けない、じゃ様にならないぜ。そういうことはチームの二人に任せておけよ。 そんなことより、続きやろうぜ」

ユウギはもっともだと頷いた。一先ず、朝になったらあの二人に連絡を入れることに決める。

「じゃ、早く治すために今日はもう寝なくちゃ。 お休み、もう一人の私」

「・・・そりゃないぜ相棒」

「ダメダメ。君は止めないと朝までやろうとするんだからね。 ほら、片付けて寝る準備!」

よし、なんだかとてもお姉さんぽい!ユウギは満足げに頷いた。もう一人は不満げに、しかし丁寧にカードをしまっていた。



 [ 第20回 学園靴隠し殺人事件 File1 (3) ]

数日後、ユウギは無事怪我も癒えたところで、再び学校に通い出した。さすがに初日から部活に行くのはあちこちで良い顔をされなかったが、仕方ない。こちらが本分なのだ。
ばたばたとその日の部活が終わり、エンジェルたちはそのまま比較的人の少ないファーストフード店へ入った。色々と確認したいことが出てきたためである。学校で話し合えないかとも思ったが、人の目が気になるし、今日は移動教室も多く、会うチャンスがなかったのだ。

「確かに、最近は幹部っぽい奴らがユウギちゃんばっかり襲ってきてたけど・・・・そっか、この千年パズルっていうのが原因だったんだね〜」

ミサはレイのポテトを齧りながら言う。レイは顔をしかめたが文句は言わなかった。ユウギは「何か弱みでも握られているのだろうか」と推理した。
ミサは最近の悪魔幹部戦において、結果的に留守番になることが多かった。実は知っている情報は誰より少ない。

「詳しいことは何も聞いてないのかい?」

レイが言うのは、もちろんジャーキーのことである。事細かな説明は受けていないが、

「ええと、確かあのエリマキトカゲの人と戦った時に、メールで・・・・ええと、めるめるめる・・・・あ、あった。
 パズルを奪われたら世界が滅ぶので絶対死守するように・・・だって」

「病院襲ってきた奴も、パズルを探してたみたいだった。
 世界が滅ぶ・・・ねぇ。いまいちピンとこないね」

「え〜、じゃあ魔王の目的は世界滅亡ってことぉ〜? 芸が無いっていうかぁ、なんというマンネリ!」

「そのへんはジャーキーから聴かないと、どうしようもないのかな。二人は何も知らないの?」

「とにかく、魔王に好き勝手されちゃまずいってのは分かってるよ〜。何か企んで動いてるってこともね。オカルトじみてるせいか、国は何の対策もしてくれないし。誰かがやらなきゃならないこと・・・だよね〜?
 そういえば、レイちゃん。最近は何も『視えない』の?」

ミサは「未来視の能力を持っているレイなら何か有力な情報を持っているかもしれない」と期待して視線をやるが、彼女は首を横にふった。

「随分前から、何も見てないよ。もう、その力自体、なくなったのかもね」

「え?エンジェルの能力って、使いきりなの!?」

使い捨てエンジェル? NO、使い捨てエンジェル!

「僕の能力は、先代『ウリエル』の残り香みたいなもので、僕自身の力じゃないんだよ」

だから、いつ無くなってもおかしくないのだそうだ。最初の頃と比べれば視る未来も、前に比べて視界不良というか・・・よく分からなくなってきていたし。このまま自然消滅してもおかしくないよ」

「そうだね〜。だから、あたしのネクロフィアちゃんは途中で居なくなったりしないと思うよ〜」

「そうなんだ・・・っていうか、ネクロフィアちゃん復活したんだね・・・」

以前、もも子に殺されてませんでしたか。「キング精霊だからだ!(パーン!)」としか言いようがないのか。



 [ 第20回 学園靴隠し殺人事件 File1 (4) ]


ここで過去の記憶が蘇ったらしいレイは、顔を上げた。

「そういえば、先代の未来視の能力は変な道具の力だったみたいだね。
 そのアイテムがあれば、ジャーキーも僕に頼る必要なくなると思うんだけど・・・」

「確かに・・・でもそれって先代のウリエルが持ってるの?連絡つく〜?」

「それに頼ってないってことは、何か『使えない』理由があるんじゃないかな」

「今は別の人の手に渡っているらしいよ。いわくありげなものだから、隠したとか、盗まれたとか・・・もの凄く昔の話らしいよ。 確か、『千年タウク』とかいう首飾りだったような・・・」

「千年タウク? 何だか、千年パズルと似てるね。千年シリーズ?」

「もしかして先代のウリエルも、それを魔王に狙われてたのかも・・・」

「確かに、未来が見える首飾りがあれば、向こうもグッと楽になるだろうしね」

「とにかく、私はこれを死守しなきゃ」

「このDEATH−Tってさぁ。あたしたちを始末することよりも、その千年パズルを奪うことが目的なのかもね〜。
 あたしもこれについてはスルーで良いと思うよ。わざわざ罠にはまりに行く必要ないしねぇ〜。
 でもさぁ、前回のことであたし思ったんだけど・・・・いくらなんでも、ユウギちゃんばっかり狙われすぎじゃない?」

「それは、私がパズルを持ってるから・・・」

「それはそうだけど、どうしてナイトメアはユウギちゃんの行く先々を把握してるんだろう、ってこと。ドラゴンレーダーみたいに、発見器でもあるのかな?」

言われてみれば、確かに遭遇率はハンパない。偶然にしてはできすぎていた。

「でもそれを言うなら、ジャーキーも常にどこか私たちを見てるような感じだよね。どうやってるんだろう・・・盗聴器とか?」

「あ、それは有り得るかも〜。ホラ、例えばこの特製携帯・・・」

3人とも一瞬黙りこくって、いっせいに電源を切った。本当にそうだったらどうしよう。

「それよりは、スパイみたいなのが居て、僕らの行動が筒抜けだってことじゃないの? そもそも僕らがここに潜入してるのだって、ここに悪魔が居るらしいって情報が流れたからだろう」

そういえばそういう設定でしたね。

「じゃあ〜・・・もし魔王側の諜報員にこちらの状況筒抜けだったとしたら? その噂も、あえて流された嘘情報かもしれないんじゃない? 敵はあたしたちを泳がせて、逆に利用してるってことだってありえるよぉ」

「・・・・ねー、もう止めようよ。疑ってばかりじゃ、きりがない。なんだか頭がこんがらかってきた」

ユウギの提案にミサとレイは頷いた。疑ってばかりでは、肩がこりそうだ。

「とにかく、早く当初の目的を果たさなくちゃね。こっちの動きが漏れてるなら、ジャーキーも下手に出てこれないだろうし」

「ああ、だから最近連絡ないのかな? もも子戦の時にも、ジャーキーがアドバイスくれたのって、ほんっとうにピンチの時だけだったし」

とにかく神の啓示も無い今は、例の噂の検証をするしかない。

「でも、捜すって言っても、どうするの?バンパイアみたいにニンニクに弱いとか、そういう弱点があるわけじゃないし・・・」

「全員咬み殺せばいいじゃないか」

「「却下」」

暴力沙汰で大会出場禁止どころじゃないよ。
しかし今までのやり方で成果ゼロだったのだ。方針を変える良い機会なのかもしれないということで、エンジェルたちは同意した。神からの待ったがかからないところを見れば、間違った選択なのではないだろう。
携帯の電源が入ってないせいとか、言ってはいけない。

「よぉし!そういうことなら、あたしに任せなさぁい!明日には、正体をまるっとつるっとお見通しよ!!」

明後日の方向へ、セーラームーンのキメポーズ。ユウギは「よく覚えてるな」とどうでもいい感心をした。

「ミサちゃん、何か名案あるの?」

「うわ・・・まさか、また変なオカルトグッズ?」

また、とはどういうことだ。ユウギは、レイのいつものクールフェイスが、ややぐったりしたのを見て身構えた。まさかこっくりさんにでも正体を聞き出すつもりか。

「もうっ、レイちゃんてば!失礼しちゃう〜、ちゃあ〜んと科学的根拠のある方法だよっ!!」

「カガク的コンキョ?」

「・・・・・・・・・」

まさか、と二人は視線を交わした。いい予感はしない。
少々ぐったり気味の二人を置いて、「まっ、大舟に乗ったつもりでいてよぉ〜」とミサはやる気満々だった。



 [ 第20回 学園靴隠し殺人事件 File1 (5) ]

「天音、何かあったのか?レギュラー全員を集まれって・・・」

ウォーミングアップも始まらない部活前。召集された男子テニス部のレギュラーメンバーたちは、何事かと身構えていた。マネージャーが部員に部活をするな、集まれということはそれほど特殊な状況なのだ。少なくともこのテニス部では。

「すみません、大石先輩。あたしたちだけじゃ、どうしようもなくて」

「どういうことだい?」

「何かあったのか?」

「早く教えてほしいにゃー」

「実は・・・なくなったんです!ユウギちゃんの靴が!!」

「エッ」

そうなの?
ユウギは思わず聞き返してしまいそうになったが、レイにものすごい勢いで口を押さえられた。ちなみに彼女の左手はデジカメで塞がっている。ミサの指示で、現在部室内の様子を動画で保存中だ。

「それって、まさか・・・」

「イジメってやつか・・・フシュ〜」

「それだけじゃないかもしれません。いたいけな現役女子中学生の使用済みですよ?何に使われるかわかったものじゃ・・・・うっ、うぅ・・・ユウギちゃん!!」

ミサはがっしとユウギに抱きついた。

「み、ミサちゃ・・・」

ユウギは声を震わせながらミサの肩口に顔を押し付け強く抱きしめ返す。レイは片手で顔を覆って、肩を震わせ―――笑って転げまわりたい欲求を押し殺していた。

「くそっ、よくも俺たちのマネージャーを・・・・・ゆるせねーな、ゆるせねーよ!」

「まだまだだね・・・」

酷い芝居だったが、身内に被害がでたということで嘘だとばれなかったらしい。誰も彼も怒りを露にしていた。
しめしめと、さりげなく置いておいたラジカセ(男子テニス部の備品)のスイッチをON。

こ、この音楽は・・・

「―――――この事件・・・きっと解決してみせる。
 名探偵といわれた、じっちゃんの名にかけて!!」

「天音の祖父は探偵だったのか?」

むしろエンジェル自体が探偵みたいなものなのだが、素で聞いている手塚は置いておいて。

「―――と、いうわけで皆さん。疑ってるようで悪いんですけど、とりあえずレギュラーから、こちらの『嘘発見器』で身の潔白を証明してもらいますねぇ〜」

部室の端っこに置かれた機材収納用デスク。その上に被せてあった暗幕を取り払うと、そこにはテレビでお馴染み、針がふれるタイプの嘘発見器が。ちなみに被験者用パイプ椅子完備です。

「あれって、脈計るやつ置いてたんじゃ・・・」

「いつのまに・・・」

部員のボーゼンとした様子なんて気にしない。ミサはレイのカメラに向かって振り返り、きりりと顔をひきしめた。

「次回、『学園靴隠し殺人事件 File2』。
 君にこの謎が解けるか?真犯人は、この中に居る!」

「誰か死ぬの?」

もちろん死にません。




犯人というか、ミサの作戦は読者にバレバレな気がするけど・・・
次回、ついにミサの推理が犯人を裁くのか?続きます^^


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