[ 第19回 もう一人のユウギのパーフェクト勝利教室3 (1) ]

現れた男を見るなり、ユウギは全身チキン肌になっていくのを感じた。忘れるはずもないあの緑頭。ナムに轢き殺されたはずのキャベツだった。

「あ、あわわわわわ・・・」

「やぁ、また会ったね。運命を感じないかい?前世からの。
 フフフ・・・」

怖っ。

完全にトラウマ認定である。こんな瀕死状態の時に相手が出来るレベルじゃない。
尋常じゃないユウギの様子にミサたちはアレな関係だと気付いたらしい。ミサはそっと肩を抱き、レイはユウギを背に庇うように立つ。

「とらあえず僕の前で群れていないことは褒めてあげるよ。 それで君、誰?」

「これは失礼。僕は海馬瀬人。海馬コーポレーションの社長をしているよ」

「若いうちから社会的地位が高いと、Sランクの変態にメタモルフォーゼする確率、29パーセント」

「天音、超似てる」

そういえばこの社長と乾の声もやたら似ている。
ミサの小説では伝わらないテニス部モノマネが炸裂したところで、海馬社長は指パッチン。ライトが変わり、ユウギはバレリーナのようにスポットライトをひとり浴びた。

「まぶしっ」

「悪いけど、すこし君のことを調べさせてもらったよ。おめでとう、合格だ」

「合格・・・?」

「そう、君は僕の隣に相応しい・・・・僕の大切な人になるということだよ。あっ、もちろん今も十分大切だけどね・・・ごめんねぇ、不安にさせたかな?」

不安なのはお前の将来だ。 そんなフォローはいらない。

「なんかよくわかんないけど、なんかキモいんですけど〜あの人〜」

要領を得ないが実に的を射た発言である。雲雀はミサに同意せざるをえなかった。きめぇ。



 [ 第19回 もう一人のユウギのパーフェクト勝利教室3 (2) ]

「危ないところだったね。ナイトメアの野蛮な悪魔に顔を傷つけられでもしたら大変だ」

「ナイトメア!? じゃあ、あいつも魔王の手先なの!?」

「手先とは心外だな。ナイトメアは取引先の一つさ」

取引先ということは、あくまで魔王の味方ということか。ナイトメアの関係者を倒すという大義名分ができた雲雀は、早速殺りにいく。

「じゃあ敵だね。咬み殺すよ」

「え!?グレーゾーンじゃない!?」

「大丈夫だよぉ〜。変態は殺しても死なないから」

矛盾しているが、妙に説得力がある説明に定評があるミサ。
一瞬で海馬社長の前にたどり着いた雲雀だったが、トンファーは突如現れた薄い布によって威力を殺された。同時に、その布から何とも蠱惑的な香が広がる。毒かと警戒して雲雀は距離を置いた。

「いや、せっかちさんね

羽衣から現れたのは国が傾く程の美貌だった。頭が痺れるようなふわりと甘い香に包まれ、雲雀は脂汗を流した。甘ったるい声を出しながら、妲己はふわふわと羽衣を揺らす。

「お得意様を守るのは秘書の義務よ

「・・・ぐっ」

「レイちゃん!?」

雲雀は頭を押さえ、よろめいた。ミサはプライドの高い彼がこうまでなるとはただ事ではないと判断し、雲雀の肩に手をかける。
その瞬間、トンファーがミサの鳩尾に突き刺さった。吹き飛んでいくミサ。ユウギは悲鳴を上げた。

「ミサちゃん!! 彩並さん、どうして・・・!?」


「ふぅん、さすがはナイトメア幹部というところかな。抜かりない」

「あら、お褒めにあずかりまして。光栄ですわ

遥かな高みから慌てふためく御使いを見て、妲己は目を細めた。

「ホーホホホホ!ヒューホホホホホホホ!!
 全ての男はわらわの魅力にメロメロ!同士討ちほど楽なことはないわ
 ・・・さあ、海馬様。少々彼らに教えて差し上げましょうよ・・・身の程というものをね

「ふぅん」

どうやらあの女性が原因らしい。左手に妙な機械を巻きつけている海馬は得意げに右手を掲げる。

「みせてやろう、我が最強のしもべ―――ブルーアイズホワイトドラゴン!!」



 [ 第19回 もう一人のユウギのパーフェクト勝利教室3 (3) ]

吹き飛ばされて以来反応がないミサ。彼女は今、土煙の中だ。ユウギはミサの傍に駆け寄ろうとしたが、彼女の前にたどり着くより先に身体が浮いた。

「きゃっ!?」

ぶわっと辺りを激しい風が吹き抜け、ユウギは更に上空へと舞い上がった。腹をがっちりと何かに押さえ付けられており、足が地につかない。ユウギはパニックになっていた。

「な、なに?降ろしてっ!・・・ひゃっ!?」

また暴風が襲い、煙が吹き飛ぶとユウギたちには信じられない光景が目に飛び込んできた。大きな白い竜が、ユウギを抱えて飛んでいたのだ。

「ええええええーっ!?」

「なに、あの竜・・・ うわ〜っ!? ちょっとレイちゃん、笑えないって・・・!」

悲鳴を上げてミサはその場から飛びのいて雲雀の攻撃をかわす。いつもの調子で冗談を言ってみるが、彼から返ってくるのは沈黙と殺気。

こう見えて神の力を与えられたミサは、かなりの運動・戦闘能力を持つ。RPGで言えば前衛キャラだ。だが純粋な戦闘力では到底雲雀には敵わない。
恐らくあの女に操られているのだろう彼は今、動きも攻撃力も普段より数段悪い。しかしそれでも避けて逃げるのが精一杯だった。雲雀恭弥という男はどこまでも規格外の強さを持っているのだ。
このままではユウギがあの変態に・・・気持ちは焦るばかりで何も案が浮かばない。

必死に雲雀に話しかけて正気に戻そうとするものの、聞こえてくるのはユウギの悲鳴と海馬と妲己の高笑いばかりだ。腹立つ。

「ふつくしい・・・!(原作に忠実)
 どうだ!これこそ我が社のソリッドビジョンの力!見るがいい!ハーッハハハハハ!」

「ソリッドビジョン!?それって、ただの玩具の立体映像なんじゃ・・・!」

エンジェルの中では1番現代化学技術に明るいミサは目を剥いた。ソリッドビジョンシステムはあくまでも立体映像であり、実体化までは現在の技術ではかなわないはずである。
変身ヒーローがそれをいっても説得力ないことは、ひとまずおいておく。

「いや!お願い、離し・・・」

全て言葉を紡ぐ前にユウギの意識は沈む。ユウギの抵抗も虚しく、白い竜は海馬の方へ飛んでいく。ぐったりと体の力を抜いて白い竜に身を任せた。

「ふぅん、少し力の加減が効かないようだが・・・よくやったブルーアイズ!さあ、ユウギをこちらに渡せ!」

白い竜は海馬の命令に応えるように一度鳴くと、そっとユウギを差し出す。海馬はそれを受け取り、大切そうに抱き上げる。

「ふふふ・・・これで君は僕のものだ」

海馬がうっとりと頬に指を滑らせると、ユウギは目を開いた。そして寝起きとは思えない声量で叫んだ。

「罰ゲーム!!」

「ぐあああああっ!?」

「ふふふ・・・相棒が意識を失った時から、闇のゲーム仕様にしておいたのさ。
 相棒に触れた瞬間、貴様は既に死んでいる!!」

宣言しろ。



 [ 第19回 もう一人のユウギのパーフェクト勝利教室3 (4) ]

完全に地に伏して意識を手放している海馬を見て、妲己はわざとらしくイヤイヤと身体をくねらせた。

「い〜や〜〜ん!! もう、海馬様ったら仕方ないわね
 総務、例のものをユウギちゃんに差し上げて

「はい」

ぱちんと指を鳴らすとどこからともなく現われた総務。慣れとは恐ろしいもので、もう誰も驚かなくなっている。
彼女は当然のようにユウギに近づき、手に持ったカードを差し出した。

「お受け取り下さい。スタッフ一同、武藤様のご出席をお待ちしております」

「あ、どうも」

もう一人のユウギは、トランプカードほどの大きさのカードを当然のように受け取った。ちなみに背後では雲雀とミサの壮絶な攻防が繰り広げられている。

「それじゃあそろそろお暇するわね。総務、お願い

「はい。こちらお客様用の『人体への影響を考えた無添加・アロマテラピー入り最高級煙幕』でございます。では、失礼します」

「んじゃ、bye-byeエンジェルちゃん。また会う日までね〜ん!」

煙幕を張られ、もう一人のユウギは口元を覆う。妲己の纏う香にラベンダーが混じって大変なことに・・・。もう一人のユウギが視界を奪われているうちに、二人の乱入者は姿をくらましていた。

雲雀は攻撃をやめ、ぼーっとその場につったっている。どうやら妲己の姿が消えたことで術が解けたらしい。ようやくミサは緊張から解放された。とりあえず攻撃されて腹がたっていたので雲雀は一発入れて放っておくとして、問題はユウギだ。

「ユウギちゃん、大丈夫!?」

煙の中で力つきて倒れているユウギを抱き起こすミサ。
意識がない。無理もなかった。既にユウギの体はもも子戦でボロボロだった。先程の二人の急襲は追い撃ちも同じだったのだ。

「あたし、くやしいよぉ・・・あたしたちはチームなのに、何もできない・・・。ナイトメア・・・これが貴方たちのやり方なの?信じられない・・・許せないよ!!」

「僕は、躊躇なく人の頭をレンガで強打できる君が信じられないよ」

「大丈夫、雲雀に戻ってる時しかやらないから」

「―――――――」

「ユウギちゃん!今病院に連れていくからね!レイちゃんが」

雲雀は、その慈悲の一割でも自分に向けられないものかと、ユウギをおぶりながら一人ごちた。



 [ 第19回 もう一人のユウギのパーフェクト勝利教室3 (5) ]

「ああ〜〜〜、ユウギ大丈夫かなぁ・・・」

マリクは、置いてきたユウギが気になるものの、妲己にぶっとい釘をさされ仕方なくナイトメア本部に戻っていた。

(妲己が言っていた『ヒトバシラ』という言葉が気になるけど・・・。ま、ユウギが重要な人物ということは、彼女に危害を加えることはないだろう)

かしこい。さすが僕。 と自画自賛したところで、「ああ〜〜〜、ユウギ大丈夫k(以下略)」また冒頭に戻る。

「それにしても、何か忘れているような・・・」

「フン。思い出せないのなら、その程度のことでしょう。気に揉むだけ時間の無駄ですよ、無・駄!」

さっきからずっと同じことを繰り返しているマリク。同席のディストも、さすがにうんざり。そもそもマリクの部下が会議室に集められたのは、彼の物思いを見守るためではない。重要な計画の打ち合わせなのだ。

「それよりも今度の計画の準備を進めなければ・・・今度こそ、私のハイパーグレートスペシャルデラックスな発明でぎゃふんと言わせてやりますよ!見てくださいこの造形美!かつ加えられた数々の機能!なんといってもこの素晴らしい」
「それもそうだね。 あぁ〜〜〜、ユウギ大丈夫かなぁ・・・」

「キイィーーーーーー!!
 ちょっと!人の話は最後まで聴け〜〜〜〜!! ・・・あっ嘘!嘘です!ヤメテ!あ゛あ゛ああぁ〜〜〜〜〜!!」

ディストが没シュートされて文字通り消えたところで、マリクはようやく肩の力を抜いた。千年ロッドで肩をトントン。バチ当たるぞ。

海馬コーポレーションとの連携は面倒だったが、彼女にまた会えるとなれば悪くないかもしれない。何しろ、初デートの場所での再会・・・運命的な展開に、二人の距離はぐっと縮まるだろう・・・・・。

その初デートがどういう結末に終わったのかも忘れ、にやにやと桃饅頭を頬張るナイトメア幹部。名前のサブリミナル効果を狙って、もも子が準備したおやつである。
もも子が現われて以来、マリクの軽食を準備しているのは彼女なので、ここ最近の彼のおやつは、「くず」と「龍」と「桃」にゆかりあるものばかりだ。ここの組織大丈夫か。

「マリク殿、鳥龍茶です。濃い目に淹れました!」

「ああ、ありがと。
 この『DEATH−T計画』――中々楽しめそうじゃないか!・・・ふふっ」

もも子が今の今まで給湯室で甲斐甲斐しくお茶の準備をしていたお陰で、彼女はマリクのユウギにラブラブ光線を目撃していない。期せずしてナイトメア本社は倒壊を免れた。

「それにしても、やっぱり何か忘れているような・・・?」

「マリク殿っ!私、頑張りますね!」

「いや、君は頑張らなくていいから。何もしなくていいから」



その頃、閉演案内と子供たちがぐずる声をBGMに、忘れられた長曾我部元親はまだ放置されていた。

「誰か・・・誰か、助けてくださぁ〜い・・・・」





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