[ 第16回 おねがいマリメロディ2 (1) ]

 「海馬ランドへようこそ〜。それでは強靭無敵最強の国へ、いってらっしゃ〜い!」

 平日だというのになかなかの混みよう。女性スタッフにチケットを切って貰い、続々とカップルや親子で賑わう園内だったが、一カ所だけ「いざ鎌倉」な空気を纏う人物たちがいた。我らが天使、レイとミサの二人である。

 「・・・ダメ!やっぱりケータイ繋がんないよぅ〜」

 「こっちも。ったく、何の為の神様なんだか」

 虱潰しにさがすしかないが、天使と悪魔が大乱闘バトルしてる筈なのに平和に運営されている。
 とうに倒したか、倒されたか、はたまた静かな戦いを繰り広げているのか、単に騒ぎが広まってないだけなのか。いずれも頭を過ぎるのは最悪な事態ばかりだ。

 「こんなとこじゃ、ネクロフィアちゃんに手伝ってもらえないし・・・園内中探してる時間ないよ!?」

 「とにかく、遊園地側に協力を頼もう」

 「協力?」




 ピンポンパンポン

 『お呼び出しを申し上げます。青春台からおこしの武藤ユウギさん。青春台からお越しの武藤ユウギさん。ご友人がお待ちです。エントランスホールの迷子センターまでお来し下さい。
 繰り返します。青春台からおこしの・・・』





 「うわ〜・・・これ、もしかして・・・ナムくん・・・」

 「武藤ユウギ、いずこーっ!?」

 元気すぎる声がばっちり耳に届いたので、遊戯は素人なりに気配を消した。
 私は石、私は石、私は石・・・。



 [ 第16回 おねがいマリメロディ2 (2) ]


 「・・・・どう考えても、ナムくん、かな・・・・心配してなきゃ、いいけどっ・・・。
  ハァ・・・っていうか、メアド聞いとけばよかっ・・・ゼエゼエ・・」

 ポストほどの大きさのゴミ箱の陰に隠れてやり過ごしたのはいいが、頭のアホ毛にレーダーでも搭載されているのか、直ぐに気配を感付かれてしまう。
 隙を見て、その場を離れる。追いつかれそうになる。この繰り返しだ。

 「いざ、勝ーーーーー負っ!!」

 「わぁーっ、パパー見て!恐竜さん!!」

 「はっはっはっ、さすが海馬コーポレーションだなぁ! My son!」

 あちこち飛び回る黒龍は人々を驚かせたが、登場時の会心の一撃以来は攻撃を控えていたので、予想していた程の騒ぎにはならなかったようだ。
 立体映像装置を扱っている会社の遊園地であるので、そういう余興とでもとられているのかもしれない。
 助けてくれと誰かにすがって、巻き添えにするのも気分が悪い。

 しかし本格的に見つかってその場で大バトルにでもなったら・・・・騒ぎに乗じてエスケープを狙っていたユウギの思い付きは実行できそうにない。

 (でも、あの子も悪魔、なんだよね・・・)

 真っ向勝負では勝てそうにない。逃げ切ってやり過ごすのも手だろう。

 (っていうか、何だか確実に追い詰められてる気が・・・)

 体力がないのでユウギはもう息絶え絶え。
 しかもどんどん人気のない所へ追い詰められてしまっている。
 ずっと家に篭っていたせいか、いつもより身体が動かない。酸欠で目の前が霞んできた。

 しかしそれでも逃げなければ。
 無理をして急に立ち上がった所為で立ちくらみが起こり、ユウギの身体は大きく揺れた。とっさのことに反応が遅れるが、受身を取る前にぶつかったのは突然現れた大きな人影にぶつかった。

 「あっ・・・」

 「あぶねっ!」

 男の声とともに、ユウギはとっさに支えられて転倒を免れた。
 それでも受け止めかねて、赤ん坊が上半身を抱き起こされたような恰好になってしまう。

 その人物が持っていたらしいモップが地に叩きつけられた音が響く。これを持っていたために彼の対応が遅れたのだろう。どうやら制服からして、掃除のスタッフのようだ。
 息は上がって、膝に力が入らない。ぐったりと身を任せた様子を見て、男は慌てた。

 「おい、大丈夫か!?」

 「は、い。ありがとございます・・・」

 「ん? あれっ、お前・・・この間の病院の・・・」

 「え・・・?」

 遊園地のスタッフにしては派手すぎる銀の頭髪。
 実は何を隠そう、彼こそがあの後路頭に迷った末にバイトとしてスタッフに採用された長曾我部元親(住所不定)であった。



 [ 第16回 おねがいマリメロディ2 (3) ]

 この少女――ユウギに良く似たエンジェルたちにこてんぱんにやられたのは記憶に新しい。
 が、どうも知っている少女とは雰囲気が違う。別人といって良いほどに。

 自分が知っているのは、あの魔王のような禍々しい目を持つ女――いや、途中で妙な男になったような・・・・うやむや。

 しかし幸か不幸か、彼をまともに見たのは、レイに吹っ飛ばされてのびている所だけだったユウギ。
 彼女の目には、ただの銀髪の不良男にしか見えなかった。客商売の為に前髪を下ろし、眼帯が普通の薬局に売っているようなものに代わっているせいもあるだろうが。

 そしてそこに、とうとう第三者の影が・・・。

 「不潔・・・・・」

 ごぉ、と周囲の体感温度が一気に上がった。
 バックグラウンドは皮膚を焼くような怒りの炎。思わずユウギを抱えたまま、一歩二歩と後退してしまう。

 男がユウギの代わりに顔を上げると、そこに居たのは華奢な少女、もも子――のはずなのだが、そんな生易しいオーラではなかった。

 (こいつは人間じゃねえ・・・・お、鬼・・・! 鬼だ・・・!!)

 鬼はお前だろう、四国の鬼よ。

 「マリク殿というものがありながら、遊園地で他の男と同時にああああいあいあい逢引っ・・・・・・」

 肩を震わせる少女。俯いていた顔をぐりんと人形のように上げて、瞳孔の開いた目で獲物を捕らえた。

 「「ヒィー!!」」

 今、二つの心が一つになった。(恐怖で)



 [ 第16回 おねがいマリメロディ2 (4) ]

 飲み物を持って戻った時には彼女の姿はなかった。

 最初はトイレかと思った。が、彼女の性格をよくよく考えると、待ち合わせ場所から離れるとも思えなくて。
 少し考えてみれば、今日はあの妙な男に絡まれて怖い思いをしていた。ひとりで取り残されればさぞ怖かっただろうに。別行動は愚策だった

 「ユウギ・・・ユウギー!」



 「ユウギちゃーん!」

 場所は変わって、別のエリアで同じ人物を捜す二人は我らがエンジェル二人。
 結局放送には反応がなく、二人は虱潰しにユウギをさがしていた。これだけ捜し回って見つからないとなると、さすがに絶望してくる。

 こうなったらやはりネクロフィアに頼る他ないかとミサが迷ったその時、レイが動いた。
 突然走り出したレイを追い掛けるミサ。こういう時の彼女は会話してくれないことを今までのミッションで重々承知なので、大人しくついていく。

 「・・・遅かったか」

 ようやくたどり着いた場所には清掃員らしき男が一人倒れているだけだった。アスファルトの床がクレーターのようにへこみ、黒い煙が上がっている。

 「この人どこかで見たよ〜な〜・・・・・・ あっ、この間レイちゃんが殺した人だ!」

 「殺してないよ」

 「テヘッ、間違えた〜。 レイちゃんが咬み殺したひとだぁ」

 ドンマイ!とウインクで誤魔化すミサ。
 レイの目には「わざとじゃないのか、このアマ」と書いてある。そして悲しいことに、その苛立ちをぶつけられることになるのは本日良い所なしのこの男――長曾我部だった。

 「ほら、さっさと起きないと二度と起き上がれないようにするよ」

 「いやーん、まさかのR18展開っ!! み、ミサ向こう向いてるからっ・・・!」

 「違う

 ドスッ

 「うぐふっ!?
 ゲホゲホっ・・・ ・・・な、なんだぁ・・・?」

 しばらく状況をのみこめず咽返る長曾我部。
 しかし一目、レイの姿を確認すると、光の速さで土下座した。
 例のバトルがよほどトラウマになったらしい。

 「スイマセンでした―――――!!」

 「すごぉ〜い! 残像が見えるほどの高速土下座!」

 「ねぇ、ユウギは?」

 「ゆ、ユウギ? あ、ああ・・・もしや、あの龍女に追い掛けられてた嬢ちゃんッスか?」

 口調までへりくだるのか、四国の鬼よ。

 「とりあえず俺は龍女にボッコボコにされたが・・・あいつは・・・・・・・
  え〜、あいつはァ・・・・
  ・・・・・う〜ん・・・・・

  覚えてねっすね!」


 もちろん、ボコボコにされた。



 [ 第16回 おねがいマリメロディ2 (5) ]

 とんでもないタイムロスだった。
 やはり闇雲に行動してはいけないのだろうか。そういえば今日の占いでそんな忠告をもらった気がするミサである。

 「やっぱりネクロフィアちゃんに手伝ってもらおう!新聞沙汰になるより、ユウギちゃんのが大事だよ」

 「そうかもね。ユウギがどこいったのか想像できないし」

 レイの言葉に反応して足を止めた少年が居た。彼はぽつりとその言葉を繰り返す。

 「――ユウギ?」

 二人の前に現れたのは黒い肌をした少年―――マリクだった。

 「ユウギって言った?君たち、ユウギのこと知ってるの?」

 「誰だい、君?」

 レイが警戒して質問を質問で返す。ここでピンときたのがミサである。

 「あっ、もしかして君、ユウギちゃんとここでデートしてた〜?」

 「えっ!?」

 まさにドッキンコ!ってなカンジである。

 レイは「へぇ」とドスの効いた声を零し、転がってモップを拾い上げた。
 今まさに、殺戮の咬み殺しジャッジメントが始まろうとしている。

 「そそそ、そんなんじゃないよ! た、ただの知り合いさ。
  ここの招待券を持ってたから誘っただけで・・・」

 「ごめんごめん、そうだよねー。彼氏ならずーっと一緒に居るだろうしねぇ〜。
  まあ、乗り物酔いして彼女置いて逃げ出した揚句、飲み物でごまかそうとして揚句はぐれるというゴミ男だったら話は別・・・・・・なんて、こんなことあるわけないよねーアハハ」

 「は、ははは・・・」

 ミサにしてみれば、マリクがジュースを持っていたことから推理したあてずっぽうな推理だったのだが、まさかの大当り。マリクは大量の冷や汗をかく羽目になった。

 「ちょっと天音、そんな下らないこと話してる場合じゃない。行くよ」

 「あ、そうだった! あー、ちょっと待ってよ〜!」

 あっという間にどこかへかけてゆく二人。

 阿呆のように見送ってしまったマリクは、汗をかいているジュースを取り落としそうになった。
 体制を整えようとした時にしたたかに何かを踏み付けて足を捻る。原因はズタボロになって横たわる自分の部下だった。

 「長曽我部!? なんでこんなところに・・・」

 「ぐえええ・・・」

 「ぐえええ・・・じゃないよ!ハッ!そうだユウギ!ユウギ知らない!?」

 「ぐえええ・・・」

 「って、こんなクズ雑巾が知ってるわけないか」

 「あ、足どけて・・くださ・・」

 「ああ、ハイ」

 どけた。
 死相の出ている長曽我部。すでに虫の息だ。

 「シヌ・・・・・・ったく、何だよ・・・今日はドイツもコイツも・・・ユウギユウギってよぉ・・・」

 「え? ユウギのこと知ってるの!?」

 「あん? ああ、何だか変なちび女からに追い掛けられてたな。
  マリク殿というものがありながらとかナントカ・・・」


  ゴッ


 千年ロッドで頭部を強打。長曽我部は完全に沈黙した。

 「ハッ、しまった! 身近なトラウマについ条件反射で・・・

 立て!立つんだ長曽我部!
 ユウギの行方を知るまで、寝かせておけない。マリクはバシバシと頬をロッドで叩いて起こそうとするが(外道)、長曽我部はすでにまっ白に燃え尽きていた。

 「まさか、もも子がここに来ているなんて・・・! どうする僕!どうする!?
  もしもも子にユウギが捕まっていたりしたら・・・!」


 (貴女はこの程度ですか!?立ち上がりなさいっ、武藤ユウギっ!ホーホホホホホ!!)

 (くっ、闘わなきゃ・・・ でも私、涙が出ちゃう・・・だって、女の子だもん☆
  ああっ、ナムくん・・・助けて!!)


 「ああぁあぁ・・・僕の・・・僕のユウギがあの脳みそ筋肉女に・・・!!」

 まあ待て。おちつけ。
 もっと重要なことがあるだろう。
 もも子の発言で自分が魔王の手先とばれる心配とか。

 「もも子め・・!待っててユウギ、いま助けに行くよ!!」

 恋する少年は盲目になっているらしい。
 とにかく大事な人を助けるため、未来に向かって走り出した。


 「・・・部下全員にGPSつけようかな・・・」

 やめて下さい。





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