[ 第14回 スーパーロボット対戦 (1) ]

 「はぁ・・・まったく、労働基準法無視にもほどがあるよ、この会社・・・・。
  あーあ今頃、放課後かな・・・。
  ユウギ、何してるんだろう・・・・・・放課後・・・放課後デート?い、いや、まま、まさかっ・・・
  ていうか、ユウギって彼氏とかいるのかな・・・・・」

 「――リクさん・・・・マリクさん!マリクさん聴いてますかっ!?」

 「え? あぁ、ごめん。ぼーっとしてた。
  反省室の居心地はどうだったかな、ディスト」

 反省室、またの名を独房とも言う。
 そこに己によって長いこと閉じ込められていた男に、皮肉たっぷりに問い掛けるマリク。

 えぇ、まぁ中々ですねとそれにまた皮肉たっぷりにディストは答えた。

 「それは良かった。
  君以外が使う予定もないし、ご希望ならあと二週間ほどあそこで暇をあげてもいいんだけど」

 「あああああああ嘘です嘘!!
  ワタクシもう辛抱たまらん程に働きたくて仕方ないんです仕事下さいあそこはもう嫌です!!」

 「そうそう、素直が1番だよディスト。
  それじゃあ、今すぐ探しに・・・」

 「待って下さい! 私のカイザーディストR2は、もう・・・」

 「何も必ずアレを使わなければならないわけじゃないさ」

 懐から取り出した、いつぞやの仮面をディストに投げ付ける。

 「手段は問わない。鬼畜外道上等、だよ。 だって僕らは悪魔なんだからね」

 あの女に先を越させるものか――最近行動が妙な例の美女への敵愾心を忘れずに冷たく笑んで、マリクはディストに背を向けた。
 


 [ 第14回 スーパーロボット対戦 (2) ]

 「あの玩具は僕が咬み殺す」

 巨大な、四足歩行の動物をもした兵器に向かって走り去る雲雀。ということは、ユウギの身体を借りる自分の獲物は―――。

 「てめえが俺の相手かい」

 「ああ」

 鎖の絡まる碇を振りかざし、元親はにいと口の端を歪める。

 「丸腰相手じゃ気が引けるんだが・・・まあ仕方ねぇ。 見せてやるぜ、海賊の流儀って奴をよォ!」

 「さぁ・・・ゲームの時間だ」

 「行くぜ!!」

 元親が地を蹴った瞬間、大きな爆発と共に、炎が舞い上がった。
 何事だ、と二人が思わず臨戦体制を崩してそちらを見遣れば――。

 「なんだ、もう壊れちゃった。 ねぇ、コレ不良品じゃない?」

 ――修羅だ。修羅が居る。
 大炎上の木騎を背に、雲雀は物足りなそうにトンファーをまわす姿はまさに、だった。

 「な、なにぃ!? 木騎を一瞬で・・・」

 まだ爆発を繰り返す木騎は、勢い余って元親の方へと崩れ落ちる。

 「うぎゃああああー!?」

 「あ」

 「あ」

 敵総大将苦戦!敵総大将苦戦!

 「ちっ、畜生!覚えてやがるぇー!! あちちちっ!そ、総務!!」

 「はい、こちら長曽我部さん専用の逃走用の煙幕です」

 「逃がすか!」

 「いーや逃げさせてもらう! ――とぉ!」

 どこからともなく現れた総務から渡された煙玉を地面にたたき付けた瞬間、あたりをどす黒い煙が支配する。煙が晴れる頃には長曽我部の姿は消えていた。



 [ 第14回 スーパーロボット対戦 (3) ]

 「くそっ、逃がしたか・・・」

 「もう、お仕舞い? もっと手ごたえあるかと思ったんだけど・・・・・・まあ、いいや」

 本当に退屈そうに溜息を吐き出すと、そのまま雲雀は少年の姿となったユウギ――“いつもの彼女とはまったくの別人である彼”を視界の端に捉え、雲雀は妖艶に笑んだ。

 「早くさっきの続きやろうよ。 あの玩具より、君のほうが面白いや」

 「雲雀・・・!」

 憎々しげに雲雀をにらみつけるもう一人のユウギ。

 「――その名は、もう捨てたことになってるんだけど。 ま、いいけどね。」

 少年の姿となったユウギ――いつもの彼女とはまったくの別人である彼を視界の端に捉え、トンファーを構える。来る、と身構えた瞬間、常人では考えられないスピードで迫り得物を振り下ろされた。それを間一髪で避け、次の攻撃に備える。丸腰の分、どうしても不利だ。

 「上手だね、逃げるの」

 「・・・・くっ・・・」

 ただでさえ、雲雀の戦闘能力は並じゃない。この場所は広く、彼の力を十分に発揮できる。攻撃に持ち込む余地はなかった。雲雀にとって、勝てる勝負だ。それでも楽しそうなのは、やはりもう一人のユウギが全ての攻撃をかわしきるスピードを持っていることだろう。

 しかしそれも時間の問題だと焦りが滲み始めた頃にいたちごっこは終わった。
 突然もう一人のユウギの動きが凍りつき、膝を突いて倒れたのだ。少年の姿が本来の少女のものに変わっていく。雲雀が側に寄ると変身もとかれて彼女が着ていた私服に衣装が戻っていた。

 「決着はまた今度か・・・・・楽しみが残ったと考えておくよ」

 雲雀は軽々とユウギを抱えると、己の病室へと向かった。巨大兵器の大炎上の跡は幻だったかのように消えうせていたが、雲雀ともう一人のユウギの戦闘によって生じた惨状はばっちりと平和な庭園に爪あとを残していたのだった。

 そしてそんな争いの跡に現れた、今更な悪魔が一匹。

 「ハーッハッハッハッハッハッハ!! また会いましたね、エンジェル・・・・って誰も居ないじゃないですか!!
  きぃいいいぃぃいぃーーっ!私を馬鹿にしてぇ!天才的な私の頭脳に嫉妬しての狼藉ですね!ハーハハハ!このスーパーウルトラミラクル恐ろしい復讐をくらって後悔するがいい!」

 花壇の隅に『奇跡の天才・薔薇のディスト参上』と落ちていた枝で描く。その背中には迷いも哀愁もなかったと偶然通りがかった看護士と入院中の小学生は語った。(ちなみに「さすが私の親友です」と語っている眼鏡をかけた長髪の人間が端に描かれている)

 「ねえセンセー、見て! 変なおじさんが花壇に落書きしてるー!きもーい!」

 「シッ! カスミちゃん、見ちゃいけません!」



 [ 第14回 スーパーロボット対戦 (4) ]

 気付けば、また住み慣れたかつての自室によく似た部屋の中に居た。
 開けっ放しの出口の向こうは真っ暗な廊下のようになっていて、さっきの階段が張り巡らされた空間はなかった。その代わり、廊下を挟んでこの部屋の向かいにもう一つ扉がある。 千年パズルに描かれたものと同じ、ウジャトの目のついた重苦しい扉。怪しげな雰囲気は何故か気にならず、何の迷いもなくその扉を押した。

 まるでピラミッドの中のような壁の室内は殺風景で、暗い。部屋の真ん中で椅子に足を組んでかけていたのは、一度忘れ去っていたあの少年だった。

 「お前は・・・。 そうか、俺に気付いたか。随分早かったな」

 彼は一瞬驚いた表情を見せたが、それはすぐにいつもの自信に溢れた表情に戻る。
 ふざけないでよ。ユウギは強張った声で言った。

 「・・・どうして? どうして、あんな酷いことしたの?」

 「奴らはお前を害そうとした。その報いを受けたまでのこと」

 「そんな・・・そりゃ、確かにあっちが悪かったけど・・・・でも、あそこまでする必要ないじゃない。やり過ぎだよ!」

 「お前はぬる過ぎる。 俺にとってお前は1番得難い存在だ。失うリスクを考えれば当然のことだぜ」

 「私はそんなに弱くないよ!お願い、あんなこともう止めて! そもそも、君は何なの?ここはどこ?どうして君が私の身体使ってるの?返してよ、私の身体・・・お願いだから、もう止めて・・・お願い・・・」

 「相棒・・・  っ!?」

 部屋の主はユウギに手を伸ばすが、それは見えない壁に弾かれた。

 「もう、わかんない・・・みんなわかんないよ! 怖い・・・!!」

 夢はそこで終わった。 家のものとは全く違う、潔癖なまでの白のシーツの上でユウギは目覚める。

 身体の筋肉が強張り、明日にはまた酷い筋肉痛に悩まされそうだった。
 身体が重くて、身動きが取れない。しかしこれは当然のことだった。何故か雲雀に抱き枕にされてしまっていたのだ。それも彩並レイの姿でなく、雲雀恭弥の姿で。思わず悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、どうにも拘束は緩まない。

 「・・・・うるさい・・・」

 「あああああ彩並さんん!? え!?ひ、雲雀さん!? は、離してっ!!」

 「病み上がりの身体で、急に倒れた君をここまで運んであげたのは誰だと思ってるの?」

 病み上がりの人間は巨大殺人兵器を瞬殺したりしないと思います。

 「ここのベッド硬いんだ。大人しく枕になっててよ・・・・・ねぇ?」

 耳の後ろからいつもよりずっと低い男の声で囁かれる。何だか腰に回る手つきが何だか怪しい。ぞっわぁと鳥肌とともに冷や汗。妖艶、というか全体的にエロイ。発禁!発禁だ!と大混乱のユウギはもう何がなにやら分からない。

 「あ、彩並さ・・・っ」
 「黙って」

 つい言われるがまま硬直しているユウギを満足そうに見つめて、するりと頬を撫でるように顎に手をかけるとぐっと抱き寄せられ、吐息がかかる近さまで顔が近づいた。さすがにこれ以上は、とは思うが両腕ごと抱かれているので抵抗できない。
 彼の色香にうっかり思考が停止した瞬間、“ぱきゅーん☆”と場違いな機械音が静かな室内に響いた。
 僅かに開いたドアの隙間から携帯のカメラを向けていた少女――天音ミサは、悪びれなく舌を出してペコちゃんスマイルをしてみせる。

 「あ―――・・・撮っ ちゃっ た☆  ・・・エヘッ☆」

 「――う、うわあああぁーん!!

 羞恥が爆発したユウギは、火事場の馬鹿力で雲雀の手を振り払ってベッドから転げ落ち、病室から逃げ出した。

 「あー、ユウギちゃん!病院じゃ走っちゃダメー・・・・・って、聞こえてないかぁ〜」

 「盗撮は犯罪だよ、天音」

 「強制猥褻も犯罪だよ、“レイちゃん”」

 雲雀は変身を解き、彩並レイとなる。それを確認してミサは「変身してたってことは何かあったんだね」と溜息をひとつ。

 「その様子じゃ勝てたみたいだけど・・・また出遅れたかぁ。 っていうか、ミサに出動要請来てないんだけど!もう〜、ジャーキーはいっつも連絡遅いよぅ〜!」

 「相手が弱すぎてあっという間に終わったんだよ。 ・・・それにしてもあれだけ挑発しても“反応がないなんてね・・・・勝負の途中で失神したせいで、恥ずかしくて出てこれないのかな」

 「なになに何の話ぃ?
  あっ、もしかして〜天使の美少年と魔王の手先の美青年と禁断の恋〜? はいは〜い、レイちゃんがセメですかぁ〜?」

 「・・・・・・・・・・・」

 「わくわく、わくわく」

 「・・・・天音、君はもう少し常識を身につけた方がいい」

 「えぇ〜 レイちゃんに言われたくないよ



 [ 第14回 スーパーロボット対戦 (5) ]

 奇しくもディストと入れ違いとなり、病院の庭園に逃げ出したユウギは花壇の側のベンチに座り込んだ。

 「ひ〜っ・・・・・・もう、恥ずかし・・・・・死ねる・・・」

 「てこずらせやがって、この餓鬼!」

 「来るな、ちくしょうっ!」

 反省、と意味もなくベンチ上で正座していると、庭園の奥から男と子供の怒声が聞こえてきた。穏やかでない様子が気になり、こっそり陰から伺う。

 そこには黒のスーツにサングラスという装いの男たちに囲まれ追い詰められている、小学生くらいの子供がいた。まさか、何かの事件なのでは。
 自分じゃどうにもならない。誰かを呼ぶにも、時間がない。――悪魔との戦い以外で天使の力を使うのは契約違反だ。

 そもそも自分には関係のないことだ。もしかしたら家族、もしくは何かの関係者かもしれない。悪いのは子供のほうだという可能性はある。恥をかくだけかもしれない。一番近くにいる看護士か誰かに協力を頼むのが一番賢明な選択だ。

 「さあ、来い」

 「大人しくしろ!このっ!」

 「いたっ・・・痛い痛い、痛てぇ!!放せ、放せよっ!」

 強引に腕をねじ上げられ、子供の悲痛な叫び声が届く。どうしようもなくたまらなくなって、ユウギはつい彼らの前に飛び出してしまった。

 「やめてっ・・・!」

 「なんだ、貴様は!?」

 「協力者か?」

 男たちのうち、少年を拘束している男以外が一斉に懐から銃を取り出し、ユウギに銃口を向ける。ただならぬ、とんでもない事件に巻き込まれたことは明白だった。凶器を向けられては、両手を上げるしかない。

 (銃・・・!? なにこれ、極い方たち!?)

 「やめろ!! そいつは関係ないだろ!」

 「――だ、そうだ。邪魔をしなければ、怪我はさせない」

 「運がいい。大人しくしてるんだな、お嬢ちゃん」

 こうなったら、やはり変身するしかない。しかし、両手を上げたままでは携帯をもてない。どうする、どうする――もう保身に走るしかないのか。
 ところがユウギが唇を噛み締めるとほぼ同時に、男たちと子供の表情が凍りついた。ヒッ、と情けない悲鳴があちこちから上がってバタバタと大の男たちが倒れていくのを不審に思って、彼らの視線の先をたどって後ろを恐る恐る振り向くと―――

 「ヒッ!! ・・・・・・・・ねっ、ネクロフィア・・・ちゃん・・・?」

 そこにはミサの頼れるパートナー、ダーク・ネクロフィアがいた。そういえば、ミサが来ているのだから彼女?がこの病院に居ても不思議ではない。おそらくネクロフィアの特殊能力か何かによって男たちは地に伏したのだろう。

 とりあえず目を見開いてネクロフィアを見たままピクリとも動かなくなった少年を引きずるようにして病院から抜け出し、交通機関を使って適当に現場から遠く、もっと遠くへと逃げていると、いつのまにかユウギたちは青春学園の校門の前に着いていた。

 近くの自販機でジュースを買って子供に与えると、ようやく落ち着いたようだった。短く礼を言うと、子供らしくない深刻な表情をしてうつむいた。随分長い髪だから女の子かと思ったが、どうやら男の子のようだ。

 「迷惑かけちまったな、ユウギ」

 「いいんだよ、モクバくん」

 少年の名前は海馬モクバというらしい。どうやら家に込み入った事情があるらしく、あの黒服の男たちに追われていたのだという。

 「でも助かったぜぃ。 俺はもう大丈夫だ。家に戻る覚悟もできたし・・・今度は上手くやるさ!」

 つかまったって殺されるわけじゃねーから安心しろと明るく言い放つモクバを見て、ユウギは切なくなった。モクバは弟よりずっと小さい、まだ小学生の子供なのに、酷い。しかし他人の自分が口出ししていい領域ではない。

 「・・・ねえ、モクバくん。私ね、この学校の生徒なんだよ。テニス部のマネージャーしてるの」

 「へえ、青春学園かぁ・・・なんか恥ずかしい名前だな」

 まったく生活環境も歳もまったく違う少年が同じ第一印象をもったことにユウギは笑った。中学生なんだな、と感心されてそれはやがて苦笑に変わったが。
 その後、青春学園のテニス部に遊びにやってくる少年の姿がたびたび目撃されるようになったのだった。




そろそろタイトルが思い浮かばなくなってきた。


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