[ 第13回 ユウギ100% (1) ]

 彩並に果物を要求されたため、ユウギは近くの病室へ赴いていた。こちらは全員女性の部屋のようだ。

 (っていうか、普通は男女一緒の部屋になんてならないよね・・・)

 それをへし折るのが雲雀クオリティ。

 控え目なノックの後、そっと部屋に入る。
 そこには四つのベッドがあり、そのうちの三つに中学生くらいの少女たちが話しこんでいた。

 「あのー、すみません・・・」

 「き、っ・・・」

 こちらの顔をみた途端、顔色を無くした三人。ユウギは首を傾げたが、三人は待ってはくれなかった。
 一人は布が裂けるような悲鳴をあげ、一人は黙りこくって、もう一人はこちらを見たまま固まって動かなくなってしまった。

 「ど、どうしました?
  か、看護士さん呼びますか?ちょっと待って下さい今・・・」

 「なによぉ!殺しにきたんでしょ!?怯えるのはもううんざりよ!殺しなさい!早く殺しなさいよ!」

 「な、なにいって・・・?」

 「またあの化け物がくる・・・もうやだ、こわいよぉ・・・お母さん、助けてよぉ」

 (普通じゃない・・・何、これ・・? まさか、悪魔の仕業―――は、無理あるか?)

 ただ立ち尽くすことしかできないユウギ。そこに看護士が駆け込んで来て、事態は収拾した。

 「ごめん、彩並さん。なんかお隣大変みたいでナイフ借りれなくて・・・」

 「あぁ、あのヒステリーの部屋に行ってたの」

 「ヒステリー?」

 「そう。変な化け物に襲われるとか、何とか・・・なんか今、似たような患者が多いらしいね。
  煩いったら・・・そういえば、みんなうちの中学生らしいけど」

 「えぇ!?それ・・・まさか、悪魔が原因じゃ・・・!?」

 「かもね」

 「じゃあ、うちの学校に悪魔が・・・それともうちの生徒だけ狙われて・・・でもなんで・・・・あっ、まさか私の身元、割れちゃったとか・・・?」

 「それはないな。
  だったら今まで君が無事なはずないだろう」

 それもそうだ。

 「君の方こそ、なんか変わったことないの?」

 「うーん・・・強いていうならこれかなぁ」

 ユウギは胸に下げたペンダントを手に取った。

 「そういえば・・・これを手に入れた辺りから、やたらと眠いような・・・っていうか、記憶があやふや・・・?」

 「なんでそんな怪しげなもの首から下げてるの?」

 「んー・・・なんだか下げてないといけない気がして・・・」

 「とりあえず取ったらいいじゃない」

 「でも、ジャーキーが大事なものだって言うし・・・やっぱり肌身離さず持ってた方がいいかなって」

 「ふーん・・・それを悪魔が狙ってくるんだね。なら僕が持つよ、それ」

 「え」

 「面白くなりそうだしね」

 それは悪魔を相手に暇つぶしするととっていいのでしょうか。



 [ 第13回 ユウギ100% (2) ]

 「いいでしょ。
  なんでもかんでもあの胡散臭いカミサマの言うこときくことないじゃないか」

 「いや、でも一応恩って言うか、契約って言うか・・・」

 「はっきりしないな」

 肩に触れられた、と思ったらいつの間にかユウギは胸元にぶらさがるパズルと一緒にベッドに身を預けていた。
 あまりの神業に悲鳴もあげる暇もなくユウギは目を白黒させたが、彩並は待ってはくれなかった。

 「結局、君はどうなの。
  それを持っていたいわけ?それで、君に何か利益があるの?」

 (ひいいいぃぃーっ!! かかっか、かみころされる・・・!?)

 顔の両脇に手をつき、上から覆いかぶさるように顔を近づけて凄んで来る彩並に、ユウギは逃げ腰だった。

 雲雀さんとはいえ、「彼」は今は女の子――しかも先ほどの同室患者への一方的な暴力を見て尚、心ときめけるような図太い神経は、残念ながら持ち合わせていなかったのだ。

 「それに、君が持つより僕が持っていたほうがパズルも安全なんじゃないの?」

 仰るとおり。
 返す言葉が見つからず視線を明後日の方向へさまよわせるユウギを見て満足そうに口の端を上げた彩並は、パズルに手を伸ばす。その瞬間、黄金色の光がパズルから放たれた。

 彩並は反射的に後方に飛び退き、そちらに向けて構える――踏み潰された同室の男が踏み潰されたカエルのようなうめき声を上げた。

 「ワォ。
  なんだい、これ・・・面白いね」

 警戒を解いてすっと伸ばされた彩並の手を弾く。

 「相棒に触るな」

 ベッドから起き上がったのはおどおどしていた先ほどの武藤ユウギではなかった。





 「・・・・あれ?」

 気づけばベッドの中。ユウギは起き上がって、部屋を見渡した。
 自分のアパートの部屋かと思えば、違う部屋だった。まるで、アパートの部屋と元・実家(差し押さえられました)の自分の部屋がごちゃまぜになったような、奇妙な間取り。家具も、懐かしい使い慣れたものだった。

 「どこ、ここ?」

 出口はすぐ見つかった。
 恐る恐る開けてみると、そこには慣性の法則もまるで無視な、階段がボイラー室のパイプのように張り巡らされている空間。どっちが上で、どっちが下やら区別がつかなくなるような景色にぽかんと口を開けて呆けていたが、そんな場合じゃないことにようやく気づく。

 「ええええぇー!? 出口どこー!?」

 ぼーっと突っ立ってられず、ともかく闇雲に歩みだした。
 すると、つま先のずっと向こうに、ユウギの身長ほどはある大きな鏡が現れた。

 金のふちのついたエジプトのアンティークのようなその鏡には、千年パズルと同じ、目のような模様が入っている。何の警戒も疑いもなく、ユウギはその鏡に触れた。
 すると、鏡はユウギを映さずにどこかの光景を映し出した。

 「彩並さん? それに・・・あれは・・」

 どうして忘れていたんだろう。
 自分で自分が信じられないほど、それは記憶のかなたに捨て置かれていた。

 「・・・私・・・・・?」

 そこに映っていたのは、いつか“会った”、自分とよく似た“誰か”だった。



 [ 第13回 ユウギ100% (3) ]

 ついさっきまでなかった気迫、顔つき、声色・・・何から何まで違う。まるで別人である。今の「彼女」なら、彩並とも対等に戦えそうなほどだ。

 「ふーん・・・いつもの草食動物じゃないね。君は誰だい?」

 「何故、貴様に教えなければならない」

 「答えてもらうよ。君は退屈しなそうだからね」

 「ハッ・・・
  パズルが光ったくらいでびびって無様に飛び退くような奴に、答える必要があるというのか?」

 「君、むかつくよ」

 むっと表情を歪めると、何の前触れもなく、彩並は至近距離で拳を繰り出した。間一髪で「ユウギ」はそれを受け止め、弾き返す。

 「くっ・・・貴様、何をする!」

 「ワォ! 君は本当に面白いね。 結構本気だったんだけど・・・」

 猛禽のような目で黄金のパズルを見据える。
 生半可な相手ではないことを悟った「ユウギ」は、ファイティングポーズのまま一歩、距離をとった。

 「千年パズル、ね。君の秘密はその中あるのかな」

 「貴様・・・」

 「君は僕が―――」

 両者の噛み付きそうな視線が交わり、一瞬の差で先に彩並が攻撃を仕掛けようとしたとき。突然彩並はぴたりと動きを止め、目の焦点を頭上の虚空に合わせた。
 やや間をおいて、彩並は表情を大きく変える。

 「ああ、そう―――へぇ・・・」

 いぶかしんだ目を向ける「ユウギ」に、彩並は余裕の表情を見せて、くっと喉を鳴らした。

 「そういうことなの――そう、全部、そうなんだ」

 「何を言っている」

 「大した事じゃないさ。 天音の言葉を借りれば、“先見”ってところかな」



 『―――「君」だったんだね、近頃の怪奇現象を起こした犯人』



 (―――え・・・?)

 鏡に触れる力が抜ける。
 鏡ごしに聞こえてくる彩並のくぐもった声が、とても鮮明に聞こえた。

 思わず足の力が抜け、体が大きくふらついた瞬間、足元の道を作っているレンガが崩れ、床がなくなった。悲鳴とともに、ユウギは闇の中に落ちていく。
 いつの間にか、奇妙な大きな鏡は姿を消していた。



 [ 第13回 ユウギ100% (4) ]

 「ユウギ」が驚いた表情をこわばらせたのは一瞬だった。すぐに不敵な笑みを貼り付け、彩並に向き直る。

 「先見、か・・・それがお前の力か。
  なるほど、伊達に神の御使いを名乗ってないという事か」

 「ワォ、認めるんだ? 随分潔いね」

 「・・・いずれ、こうなると分かっていたさ。
  それでもいい。俺はもう、二度と御免なんだ・・・・・『いつか』を待つのは」

 目を伏せ、「ユウギ」はパズルを手に取った。

 「この千年パズルは俺と相棒を繋ぐ絆・・・貴様に渡すわけにはいかない」



 「――千年ぱずる、だとぉ・・・・?」



 現れた影に、ユウギと彩並の視線がベッドの向こう――部屋の奥へと向けられる。

 そこには、何度も彩並に遊ばれていた銀髪の男が立っていた。
 ゆらりとその影がぶれたと思えば、一瞬にして服装が変わる。左目を覆っていた白いガーゼの眼帯は黒く艶のある上等な物へと姿を変わり、男はおろしていた前髪を後ろへ撫で付けて流した。

 「ハッハァ・・・・ようやく見つけたぜ、お宝ァ・・・!!」

 手に持つ得物はひと一人ほどの丈のある、鎖付きの碇槍。まるで箒のように軽々それをかつぎ、己より身長の低い二人を見下ろす。
 隠すように片手でパズルを掴んだユウギは、警戒の色を含ませて男に口を開いた。

 「・・・何だ、貴様」

 「あぁん? 俺の名前を知らねぇたぁ、てめぇら、とんだ田舎もんだな。
  鬼ヶ島に鬼てのは、この俺――じゃねーや。

  俺は≪ナイトメア≫の“ばいと”! 長曾我部 元親(ちょうそかべ もとちか)!!」

 「ナイトメア・・・・この間仕留めそこなったエリマキトカゲの仲間か」

 突然のナイトメアの刺客の登場にもひるまず、二人は長曾我部に対峙した。

 「とにかくその千年ナントカを持ってかねーとメシにありつけねぇんでな!
  力ずくでも渡してもらうぜ!!」

 「ちょっと、病院なんだから静かにしてよ。 暴れるなら咬み殺すよ」

 「あっ、スイマセン・・・
  ・・・まぁ、俺もこの屋敷(※病院)には世話になったしな・・・・チッ! おい、総務!」

 「はい」

 ユウギたちが疑問に思わないほど自然に、どこからともなくOL風の装いの穏やかな雰囲気の女性が長曾我部の背後に現れた。
 それに驚くことなく、長曾我部は空いているほうの手を総務に向かって出す。

 「仮面!」

 「はい。 こちらが長曾我部さん用の仮面魔獣になります」

 「おう」

 「では、失礼します」

 仮面を渡して朗らかに微笑むと、またしても彩並がリアクションを取れないほど自然に彼女は病室から姿を消した。

 「場所を変える!来い!!」

 そう言うなり、長曾我部は懐から気味の悪い仮面を取り出し、窓の外に投げると、それに続いて開けっ放しの窓から飛び降りた。念のため補足させてもらうが、ここは5階である。

 「来い、木騎(もっき)!!」

 仮面は意思があるかのように一直線に飛び、庭のライトアップに使われているのであろう、古ぼけた背の高い照明器具に張り付いた。すると金属であるはずのそれがグニャリと形を変え、四本足の動物のような形の巨大兵器に姿を変える。
 現れた木騎の上に、タイミングよく長曾我部が舞い降りた。

 「屋敷ごとぶっ潰されたくねぇなら、さっさと巣の中から出てきなぁ!!」

 ごぉう、と景気良く木騎の口から天に向けて炎が吐かれた。

 「へぇ。面白いおもちゃだ」

 「チッ・・・どうやら今は貴様とやりあってる場合じゃないらしいな。行くぞ」

 「群れるのは御免だよ。
  ・・・先に行っておくけど、あんなのにやられないでよ。君は僕が咬み殺すんだから」

 「そいつはどうかな」

 不敵な笑みを見せ合い、二人は視線を目の前の敵へと向けた。
 それぞれ携帯を手に取る。

 「“風に神の癒しを”」

 「“土に神の光を”」

 気が遠くなるほどの神々しい光。
 おあつらえ向きの、恩恵――。

 「変身」

 神のいたずらか、偶然にも二つの声が綺麗に重なる。



 [ 第13回 ユウギ100% (5) ]

 時間をちょっとさかのぼり、所変わってナイトメア本部。

 「遅い・・・遅すぎる!!
  ――ちょっと総務!」

 痺れを切らしているのは、お馴染み悩める中間管理職マリクだ。イライラを誤魔化すように、椅子に寄りかかって机に足を乗せている。

 「はい」

 「どうなってるんだい、あのバイトは!」

 「あのバイトと申しますと、アルバイトの長曾我部元親さんのことでしょうか」

 「そうだよ、なんか凄い字面の彼だよ!
  失敗なら失敗だと報告のひとつでもあってもいい頃じゃないの?慎重にもほどがあるよ!」

 どこからともなく現れた女性――総務は手元の資料を確認し、マリクに簡潔に求められた情報を伝えた。

 「長曾我部さんは、現在東京都内の病院にて入院中とのことです」

 「入院!?
  何やってるんだ!あいつ最強のサムライじゃないの!?」

 「無一物で行き倒れているところを不良少年に狩られ、通りすがりの女学生に助けられた挙句に何故か不良とまとめてフルボッコにされたそうです」

 「ええええぇー・・・?
  何それ・・・・・戦力外も良い所だよ・・・とんだ給料泥棒・・・いや、後払いだからまだ大丈夫だけど」

 (これじゃあ、あの女に今度は何を言われるか・・・・あぁ、考えただけで腹立つ・・・!
  あーあぁ、こんなことならバイトなんて雇うんじゃなかったよ・・・くそっ!何が経費削減だよ、ドケチ大魔王め・・・・!!)

 上司に聞かれたら大変なことになりそうな台詞まで、心の中で愚痴り放題なのであった。
 続くのであった。




【マニアックすぎてよく分からなかった人のための親切な解説】

長曾我部元親・・・ゲーム・戦国BASARAのキャラクター。敵キャラのNPCだったが、戦国BASARA2からPCになった人気者。
鬼が島の鬼を自称する、荒れくれもの武将。海賊をモチーフとした軍を率いていて、からくり兵器が大好き。しかし情に厚く部下思い。兵からはアニキと慕われていて、親衛隊もいる。

総務・・・実はアニメ・レジェンズに出てくる総務。
以下、ウィキより「管理部門OLで社員をバックアップするためになら、どこにでも一瞬で姿を現す従順な部下。本名はめちゃくちゃ長いらしい」

ユウギ100%・・・忍たまOPの「勇気100%」から。漫画「いちご100%」からの方が良いと思った方はそう思ってください。


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