[ 第8回 お祓いでGO! (1) ] ( 『強くなりたい』か・・・悪くない) 実体を持たない少年は奇抜な髪型をしているが、容姿は整っている。 彼は少女が先ほど完成させたものと同じ金色のパズルに紐が通されたものを、ネックレスのように首にぶら下げて身に着けていた。 ( お前の望みを叶えよう。お前が払う代償は、たった一つ―――) 意識を手放して床に倒れたままの少女を見下ろして、少年は姿を消した。 所変わって、暗黒を背にしてそびえ立つ高層ビル。 まるで悪魔の巣窟のような邪悪なオーラ・・・・・当然、ただの建物ではない。 「さて・・・・どうしたものか」 日本人よりも黒い肌を持つ少年は、変わった形をした黄金の杖を撫でながらデスクに腰掛けた。 杖には逆さピラミッド型のパズルと同じ、目のような紋様があった。 外国人であるため、当然掘りが深い。 しかし端正な顔立ちで、行儀が悪いというのにどこか気品があった。 目元のアイラインのような黒い模様も、首や腕を飾る金の輪も、ちぐはぐであるはずなのに妙に調和している。 「・・・やはり、ここは」 「ハーッハッハッハッハ!魔王様もようやく私の力に頼らざるを得なくなったようですね!」 現れたのは空中に浮いた安楽椅子に深く腰掛けた、丸眼鏡をかけた銀髪の男性。 「居たのかディスト」 「居たのかぁ!?貴方が呼んだんでしょうが!!」 「僕が?覚えてないな・・・」 「キーーーーーーッ!!覚えてなさい!復讐日記につけておきますからねぇっ!」 ディストと呼ばれた銀髪の男性は、マリクという少年よりも年上なことは間違いない。しかし精神年齢的には真逆であろうことが言動から伺えた。 「おい、上司にその態度は何だ。減給だぞ、減給」 「くっ・・・! ・・・ところでマリクさん、一体何が起こったというのです?先ほどから落ち着きがないようですが」 ちらりと品定めするようにマリクの視線が動いたことを、眼鏡をかけなおしていたディストは気づかなかった。 「そうだね・・・小手調べには君が丁度いいか。 教えてあげるよ。これはまだここの上層部しか知らないことだが―――現在、千年パズルが日本にあるらしい」 「な、なんですって!?」 「ここの幹部として、君にとても重要な任務を任せる。 偉大なる魔王の名の下に、千年パズルを回収せよ」 「お任せ下さい!必ずやご所望のものをお持ちしましょう!」 「いい返事だ。餞別に“仮面 ”をあげるよ」 「気持ちだけいただいておきましょう。そんなものに頼らずとも、『天才』の私には類まれなる才能がありますからね!! ああ、こうしてはいられません!カイザーディストRの調整をせねば!ハーッハッハッハッハッハ・・・」 現れたときと同じように高笑いしながら空飛ぶ椅子に乗って去る『もういい歳』の男性。それを見送って、マリクはわずかに表情を変えてぽつりと呟いた。 「『期待して待ってる』よ、ディスト・・・・・・君の代わりはいくらでも居るんだからね。 さあ、仕事だ」 そこには温度の無い、意地の悪い笑みが浮かんでいた。 [ 第8回 お祓いでGO! (2) ] 気がつけば床に寝転んでまどろんでいた。 さっきの非現実的な出来事は全て夢だったのではないかと思ったが、逆さピラミッド型の黄金のパズルは完成した状態の上、ペンダントトップのように紐につながれ、私の首にかかっていた。 確かにこの紐はお土産のダンボールの中にあったが、これをパズルに取りつけた記憶はない。 「う、うぅ・・・・・だる・・・・」 そして体が異様に重たい。 固い床に寝ていた所為だろうか。 それにしても、あれは何だったのだろう。 とりあえず、このパズルは私にはよくないもの・・・のような気がする。何だか不気味で今すぐ首から外して捨てたかったが、そうもできなかった。 ・・・なんか、呪われそうだし・・・・・。 結局あの変な声はなんだったんだろう。やはり幽霊か・・・・透けてたし。 というより、どこからが夢なのか。 パズルが完成してから疲れきって昼寝したというのが理想だが、そんな記憶はない。 「・・・そうだ!お祓いしてもらおう!」 我ながらグッドアイディア! ジャーキーと出会う前の私なら、『宗教モノ』という胡散臭さによって何の行動も起こさなかったが、今の私にとっては何もしない方が怖い。夜眠れなくなりそう。骨折レベルで呪いを受けそう。 そうと決まれば、せっかくの日曜日だ。何事も早いうちがいい。私は早速行動に移すことにした。 ついでに最近厄介ごと続きだから、私自身もお祓いしてもらったほうがいいかも知れない。悪魔とも会ってしまったようだし。 いや待て、悪魔となると外国の宗教・・・教会に頼んだ方がいいのだろうか。 引越し当初から大活躍の近郊タウンマップを引っ張り出して、まだ慣れない町の交通機関を利用して目的地を目指す。 ジャーキーから生活支援金として生活費をいただいてはいるが、さすがに移動手段全てタクシーとはいかない。金額的にも、良心的にも。 「やっと着いたー」 割と近場だったお陰で、食事などの準備を含めて2時間かからずに着けた。 さっそく中に入ろうと入り口を探すが、ふと何のアポもとってないことに気づく。 「・・・まあ、ダメだったら今日予約とっといて、次回」 「武藤っ!」 振り返った先に居たのは越前君と――武田君だった。 [ 第8回 お祓いでGO! (3) ] 「武田君!?」 驚くのも無理はない。 何故なら彼は、目の前で悪魔に食われたからだ。 「どうして・・・」 「なあ、お前昨日のアレ覚えてる!?透明人間っぽいもの!! お前も越前に言ってやってくれよ!コイツ全然信じねーし!」 どうやら彼にもあの時の記憶はあるようだ。 「どうなの、武藤。まさかアンタまでバカなこと言いだす気?」 ・・・・・・・・・・・・。 うーん・・・。 「昨日のアレって・・・透明人間って何のこと?」 後の『エンジェル』活動の動きやすさを考えて、ここは誤魔化した方が吉とみた! 「ええええー!?なんだよそれ!武藤!」 武田くんは裏切られたとばかりに大げさなリアクションを見せる。越前君といえば、「やっぱりね」といった表情だ。 「本当だって!!俺、透明人間に食われたんだって!」 「っていうか、透明人間って人食うっけ?」 「あーもー越前うるさいっ!!」 しかし越前君の意見はもっともだった。 正確に言えば、あれは人間というよりも化け物だ。 「武藤!じゃあ何で俺の顔見た時に驚いたんだよ!?」 「それは、だって・・・珍しい組み合わせだったから・・・・・どうして二人ともここに?」 「武田とは買い物帰りで会ったんだよ」 「そー、俺が病院から帰ってたら偶然会ってさ!んで話してみたら家近いらしくて、ついでに越前ち見てみたいって言ってついてきたんだよ」 「病院?どっか怪我したの!?」 「いや、俺昨日気づいたら路地裏で寝転んでたからさ。一応診てもらおうと思って。ま、何とも無かったんだけど」 た、タフだな武田君。 しかもそんな訳のわからない状態で、翌日の今日こんなに動き回ってたのか。しかも一人で。 「武田、むしろ何かの事件に巻き込まれたんじゃないの?そっちの方が確率高いでしょ」 「そ、そうそう!変なクスリ嗅がされて、幻覚見たとか!」 「・・・なるほど、そういう方向もアリだな・・・・にしても怖かったー。夢で魘されたもん。すっげえよ。透明人間の腹の中はな、魔界につながってんだよ」 「それより武藤、こんなとこで何してんの?」 武田君の透明人間内部体験記を鮮やかにスルーして、越前君は私に話を振った。もしかしたら私に会うまでずっとこの話をされていたのかもしれない。 「私はここのお寺にお祓いしに来たんだ」 「・・・・・・・あのさ、武藤」 「なに越前君?」 「ここ、俺んち」 「え」 「って言うか、お祓いは寺じゃなくて神社だしな」 「えぇー!?」 武田君にとどめをさされ、私は己の無知を憎んだ。 ・・・・・宗教なんてっ・・・! [ 第8回 お祓いでGO! (4) ] 「でも、お祓いなんてどうしたんだよ?」 「実は、これ・・・」 首からさげた例の逆さピラミッド型のパズル。首にかかったままのそれをひょいと持ち上げたのは武田君だ。 「なんだこれ?うわ、結構ずっしりくるなー。えーと・・・ピラミッド型のレモン搾り機?」 「んなわけないでしょ!?バチあたるよ!」 発言が危うい武田君から慌てて取り返す。 「これ、何か不味いわけ?曰くつきとか?」 「んー、まあ・・・そんなもんかな。っていうか、私自身最近厄続きだから・・・」 「ふーん」 越前君はパズルには興味なさそうだ。 いわくつきのパズルよりも、むしろせっかく部活のないフリーの日曜にわざわざお祓いに出向く私の方が興味深いだろうな。変人で。 「でも、武藤よくそんな重たそうなのずっとさげてられるよね。歩くたび腹に刺さりそうだし」 「俺も思った!超重かったんですけど!カドは鋭いしさ!ま、女子はオシャレのためなら何でもやせ我慢するけどな」 「え?嘘、すっごい軽いじゃんコレ。ぶつかってもお腹痛くないし。ほら、小指で持てる・・・・どうしたの?」 急に深刻な顔になった二人は、それぞれ私の肩をたたいた。 「それ、絶対祓ってもらった方がいい」 声揃えて言わなくても。 「じゃ、せっかくだし皆で行かねえ?神社。俺、お祓い見てみてぇし」 と言う事で、何故か三人でお祓いに行くことになりました。 越前君なんて、せっかく家の前まで帰ってきたのに。 それを指摘してみると、「武田君はどうせ明日会うし、越前はここで解散でもいいぞ」と提案されたが、「行くと」即答された。お寺の息子さんにとって神社は物珍しいんだろうか。 「おー、鳥居鳥居。俺、神社は初詣以来だなぁ」 「俺も」 「二人とも、初詣はここなの?」 「いや、俺はもっと大きいとこ!なんかウチは家族全員でいく行事になってんだよね。ねーちゃん去年かなり渋ってたなー」 「へー」 「武藤、来年一緒行こうよ。初詣」 「来年!?気ぃ早過ぎない!?」 「お、いいねー。俺も俺もー」 「・・・チッ」 柄悪っ! 皆で仲良く行けばいいじゃないですか、部活の仲間なんだから・・・。 「やだよ、新年早々男と出かけるなんて」 「なんだよ。男女差別反対――」 「あっ、わっ、おみくじだって!やりたいかも!二人ともどうする!?」 なんだか不穏な空気になってきた状況を打破すべく、慌てて話題を変えた。空気読めるぞ、私。 「あ、俺お守り欲しい。今度従兄弟の兄ちゃんとこに子供産まれるんだよねー」 何とか目論見は成功。 ちなみに私のおみくじの結果は小吉でした。 さ、幸薄い・・・。 [ 第8回 お祓いでGO! (5) ] 小吉と末吉ってどっちがいいんだっけ・・・? とりあえず指定の場所にくじを結んで、お祓いを申し込んだところ、やはり予約がいるとのことだった。 仕方がないので今日はとりあえず予約だけ済ませて、後日ということになった。 お祓いをする側の都合とか、衣装とかの準備があるらしい。 予約はすこし離れたところで行っているらしく、わざわざそこへ足を運ばなければならなかった。おみくじと同じ場所でさくっと終わらせられればいいのに。 すぐ終わるだろうと検討をつけ、2人には境内で待っていてもらった。 私は一人で指定された場所へと向かう。 「あー・・・・地図で見るより、結構遠いしぃ・・・」 中々見えてこない目的地に苛立ちつつも歩を進める。 あの二人には、ただでさえ用もないのに付き合ってもらって――しかも結果お祓いは今日しないのだから、無駄足に終わってしまった。なるべく待たせたくない。 「ハーッハッハッハッハッハッハ!!」 突如前方から聞こえてきた高笑いに、私は思わず歩くことを忘れた。 声を発した人物を見つけてまた呆ける。 あ、コイツやばい・・・と思った。一目で相手がまともな人間でないことが分かる。 怪しげな笑みを浮かべ、エリマキトカゲを髣髴とさせる紫の襟をつけた黒ずくめの服装で、挙句空を飛んでいるとなれば――普通の人間のはずがない。 全力でお近づきになりたくない人種だ。 「そんなところに隠れていたんですね。見つけましたよ、千年パズル!」 「せんねんパズル?・・・これ?」 この金色の――現在はペンダントトップとなっているこのパズルのことだろうか。他にパズルのようなものは私は所持していない。 「そうです、それです! まさかこんな小娘が持っているとは・・・・それをこちらに渡しなさい!それは貴方が持つべきものではありません!」 「え、別にいい」 ≪迫るぅ〜 ショッカァ〜 地獄のぐーんーだ〜ん≫ 微妙なタイミングで携帯が鳴った。 これはロック調の2000ver.・・・メールか。 「あ、すいません。ちょっと待ってください上司が・・・えーと」
「・・・・・・・・・・・・・・」 リアクションに困った。 顔文字、かわいいな・・・。ジャーキー、お前いくつだ。 記念すべき神からの初メールがこれかよ。 ・・・カチカチカチカチカチカチカチカチ・・・・。
「送信、と・・・」 「もういいですか?早くパズルを渡しなさい」 「あ、すいませ」 ≪迫るぅ〜 ショッカァ〜 地獄のぐーんーだ〜ん≫ 返信 早っ。
・・・・・・・。 いつものことだけど 遅いよ!! |
【マニアックすぎてよく分からなかった人のための親切な解説】
お祓いでGO!・・・ゲーム「電車でGO!」のパロ。
「災厄はキミだ!」・・・電車でGO!のキャッチフレーズ、「運転手はキミだ!」より。
マリク・・・漫画「遊☆戯☆王」のキャラクターであるマリク・イシュタールより。
ディスト・・・ゲーム「テイルズ オブ ジ アビス」のキャラクターより。通称『死神ディスト』。本名はサフィール・ワイヨン・ネイス。
ロック調の2000ver.・・・初代仮面単車乗りのOP「レッツゴー!!ライダーキック」のカバー曲。ロック調にアレンジされている。