[ 第4回 撲殺天使レイちゃん・1 ]

 「僕は14代目『ウリエル』の彩並(あやなみ)レイ。聞いてるだろうけど、今はこの学校の一年生」

 「・・・あの「コードネームだから」

 「そ、そうですか・・・」

 零号機には乗ってないんですね。

 というか、僕っ子ですか。
 身を包む学ランと言い、彼女は男の子願望でもあるのだろうか。
 まあ中学生と言えば思春期だ。色々あるのだろう。

 因みに現時点で既に3箇所、痣、絆創膏、包帯を確認している。
 年頃の女の子が何故満身創痍なんだ。こんなところまで綾波じゃなくてもいいだろう。

 「あはは、いきなりこんな名前じゃ、びっくりするよねぇ。
  あ、『天音ミサ』もコードネームだよ〜。ジャーキーにつけてもらったの」

 妙に納得した。

 コードネームといっても、『エンジェル』になるために人間の名を捨てた私たちにとっては、本名同然の名だ。
 神(ジャーキー)のネーミングセンスが悔やまれる。
 何故引用せず普通につけてくれないんだ

 だが、たとえ男みたいな名前でも、この二人に比べれば幸せであることは間違いない。
 『月野うさぎ』にならなかっただけ、マシだ、マシ。

 「因みにミサは19代目『ガブリエル』だよ〜」

 「19代目?そっちもだけど、数字、小さ過ぎない・・・?『ラファエル』は私で49代目なのに・・・」

 「んーとね、ミサもよく知らないんだけど、『ラファエル』に選ばれる人は戦闘はあんまり向いてないこと、多いみたいだから・・・もともと治癒の天使だしねぇ」

 それはつまり何か。 弱いからよく死ぬってことか。



 [ 第4回 撲殺天使レイちゃん・2 ]

 念のため、私たちはジャーキーに渡された携帯電話を見せ合った。
 実はこれはエンジェルしかもたない、特殊なものだ。異世界に居ても通じるとか何とか。試したことが無いので何とも言えないが。
 ともかくお互いの携帯を見せ合い、本物のエンジェルであることを確認した。

 あくまでこれは神の創造物。
 さすがにこればかりは敵も偽装できないと、受け取る際にジャーキーから一報いただいている。
 間違いなく眉唾ものだが。

 「あれ〜、ミサたちがマネやってること、ジャーキーから聞いてなかったぁ?ユウギちゃん、何だか様子おかしかったから、バラすのはレイちゃんが来るまで待ってたんだけど・・・・私のところには連絡来たんだけどな〜」

 「僕のところにも来たよ」

 心底聞いてねえー。
 私だけハブられてるって、これどういうこと?

 黙々とマネ仕事をこなしながら、部員が練習に集中しているのをいいことに仲間二人とビジネストーク。
 ・・・ともかく、味方のエンジェルと無事合流できてよかった。

 「そういえば、レイちゃん」

 「ちゃん付けで呼ばないでよ。気色悪い」

 あんまりDA。

 「え、でも、ミサちゃんは・・・」

 「・・・この女が、僕の言うことを素直に聞くと思う?」

 聞かないんだね。

 「あはは〜。もー、レイちゃんってばぁ。
  ごめんねユウギちゃん。ちょっと言い方キツイ所あるけど、元々こういう子だから気にしない方がいーよ〜」

 「天音、咬み殺すよ」

 貴女はどこの雲雀恭弥。

 「え、えーと、じゃあ彩並さんって呼べば良いかな」

 「・・・・・・・・・」

 無言のまま、この場から洗濯物を持って退場。いや、この場合無視か。どっちだ。
 結局答えはどうなんだ。良いのか。駄目なのか。キッチリしなさい。

 「きゃ〜。ユウギちゃん、モテモテー」

 「今のを見て、何でそういう結論が出るの・・・? っていうか、何でこんなに嫌われてるの、私」

 「ユウギちゃんったらニブイなぁ!!ここはね、“レイ”って呼び捨てで呼ぶフラグだよ!」

 「そうかな」

 「そうだよ!どこまでフラグクラッシャーなの!」

 (フラグは果てしなくどうでもいいが)いきなり呼び捨てとはいくらなんでも馴れ馴れしくはないだろうか。
 しかし、もし“彩並さん”が却下され、これでもまだ彼女のプライドが満たされないとなればどうすればいいのだ。

 ここはやはり“彩並様”とでも呼ぶべきか。
 “彩並殿”も捨てがたい。



 [ 第4回 撲殺天使レイちゃん・3 ]

 良く考えれば、ここは敵の潜む場所。
 必要最低限以外の話はひとまず後で、と話を打ち切った。
 途中、マネージャーの会話も織り交ぜて誤魔化してはいるが、敵の情報がほぼ無い今、どこに耳があるか分からない。

 その後、日誌の書き方を教わり、今日のマネの仕事も終わった。
 練習用具の片付けの後に解散となった。
 ちなみに彩並さんは体調不良とのことで仕事の途中で早退。

 ミサちゃんと彩並さんもそれぞれ一人暮らしらしい。
 帰路はバラバラだ。
 たしかに、いくらエンジェルだからって、表向きは赤の他人だ。一緒に住めば目立つ。

 明日の早朝練習のための集合時間に衝撃を受けつつ、なにはともあれ一日お疲れ様である。
 心身ともにクタクタだが、まあ、実り有る一日だった。

 「あ、なんだ武藤か。お疲れ」

 「あ、(元就!!)・・武田君、お疲れー。帰りこっち?」

 「ううん、郵便局に用事あって。切手買いに行かなきゃなんなくてさ」

 「そっか、じゃあ途中まで一緒だね」

 「うん・・・ところでさ、武藤」

 「ん?」

 「ザビーって知ってる?」

 この後、絶叫と共に武田君と観客の居ないBASARAトークショーが始まるのだった。
 タオル取り込むときにザビザビザビザビ歌ってたのを耳にしていたらしい。
 そして元就君は長曾我部兄貴が一番好きらしい。さすが元就!!

 仲良くなったついでになんなく『元就君』と呼ぶ許可をいただいた!らっきー!
 いつか雨で部活休みになったら一緒にやりたいなーBASARA。えへ!



 [ 第4回 撲殺天使レイちゃん・4 ]

 高校・大学受験の荒波に飲まれながらものりきった経験を持つ私に中学一年生の授業などとは笑わせる。

 今の私は、謎のクスリにより小学生からやり直すこととなった工藤新一のようなもの。若返っていない分、下手すればそれよりタチが悪いが、それはおいといて、だ。

 そんな私には中学生の勉学などは敵ではなく、転校早々内職&居眠りの日々だ。
 今後の将来を想定しなくていいだけに、手も抜き放題。一夜漬けもやり放題だ。いや、元々一夜漬けでテスト乗り越えるタイプの人間だが。

 授業、中でも特にお昼前の4時間目の授業は昼寝で空腹を紛らわすに限る。
 早弁したって、どうしてもお腹がすくのだ。日が暮れるまで部活動もあるし。
 
 この気の弱い私がそんなにデカく出られるのは、偏に隣で大爆酔してくれる越前君のお陰だ。やっと名前覚えました。
 ジャパニーズ赤信号みんなで渡れば怖くない精神というか、単に隣で寝られると釣られて寝してしまうというか、まあ褒められたものではない。

 しかしそんな日常に置いて受ける僅かな恩は、現実の二文字によって、記憶の彼方に吹っ飛んでいた。

 何故私は越前君とランチを共にすることになっているのだ。
 正確には男テニの2年生レギュラーのモモ・・・なんだっけ。とにかくその先輩との3人の食卓なのだが。

 「せっかく昨日一緒にお昼ご飯を食べた子がまた誘ってくれてたのに・・・・これが原因で女子グループからあぶれたらどう責任取ってくれんですかー」

 「こらこら、新人マネージャー。部活の付き合いだって大切にしなきゃいけねーな。いけねーよ」

 「先輩はこの越前くんがどんな手口を使ったか知らないからそんな適当なこと言えるんです。
  ・・・・大体、騙すなんて酷いよ!部活って言ったくせに!」

 「嘘じゃないよ。コレ食べたら昼休みコート行くから。マネでしょ。手伝ってよ」

 ・・・無償奉仕なんてっ!



 [ 第4回 撲殺天使レイちゃん・5 ]

 「ねえ、それアンタ作ったの?ちょうだい」

 「おっ、それ美味そうー!一口くれ!」

 こういう展開になると予想できたからヤなんだよ!
 わがまま中学生め!育ち盛りのスポーツマンめ!
 くそう!でも可愛いからあげちゃう!

 「ああ・・・食い盛りの中坊にたかられて、餓死する・・・」

 「お前も中坊だろ」

 「先輩、これじゃ私、家にたどり着くまでに行き倒れます。これ立派な殺人未遂ですよ。謝罪と賠償を!なんか奢って下さい!」

 「えー?・・・・しゃーねーな、新人マネジ歓迎会ってことで、じゃあ今日帰りにマックでも行くか」

 「マジすか!?うわあ、先輩おっとこ前!!じゃあ、じゃあ、ポテト食べていいですか!?」

 「じゃあ俺えびバーガーセット」

 「なんでお前の分まで奢らなきゃならねーんだよ。しかもセットで!」

 ≪ざーんーこーくな 天使のようーに しょーうーねーんーよ 神話に なーれー≫

 「うわっ!ビビッた!」

 「あ、すいません私です」

 この着うたは彩並さんだ。
 あんまり友好的じゃない感じだったから、設定しても役に立たないかと思ったけど、せっかく綾波なんだしね。
 あ、でもこれ本人にバレたらヤバイかも。後で変えておこう・・・。

 「えーケータイケータイ・・・あれ、どこだ?」

 「携帯持ってるんだ。アド教えてよ」

 「俺もー。あ、部活中は切っとかないと校庭走らされるぞ、部長に」

 「分かってますよ!
  あ、あった・・・・も、もしもし?」

 『いつまで群れてるの。咬み殺すよ』

 だから貴女は、一体どこの雲雀恭弥。

 「えっ、む、群れてないですよ・・・」

 『・・・話がある。来て』

 「へ!?ど、どこに」

 『音楽室。鍵は開いてる。天音も連れて今すぐ来て。じゃあね』

 どうやらお仕事のようです。
 私はまだ半分も減ってないお弁当を泣く泣く仕舞ったのだった。




【マニアックすぎてよく分からなかった人のための親切な解説】
撲殺天使レイちゃん・・・ライトノベル「撲殺天使ドクロちゃん」のパロディ。語呂の悪さには全力で目を瞑れ。

彩並(あやなみ)レイ・・・もちろん「新世紀エヴァンゲリオン」のヒロインの一人、綾波(あやなみ)レイから。

綾波(あやなみ)レイ・・・女性キャラクター界に大きな影響を与えたキャラ。「無表情で感情の起伏がなく、どこかしら人形を彷彿とさせる(wikipediaより)」。パイロットのため、いつも怪我が絶えない。

零号機・・・同じくエヴァより。綾波レイの乗る機体の名前。

≪ざーんーこーくな 天使のようーに≫・・・エヴァの主題歌「残酷な天使のテーゼ」。アニメとともに大ヒットした。

雲雀恭弥・・・漫画「家庭教師ヒットマンREBORN!」のキャラクター。謎の多いクールな美少年で不良。トンファー使いで、規格外的に強い。学校だけでなく、主人公の住む町全体・その裏社会をも仕切っている。『群れる』ことを嫌う一匹狼で、他人が群れていると「咬(か)み殺す」と称して半殺しにされる。

フラグクラッシャー・・・要するにKY。

ザビザビザビザビ・・・「戦国BASARA」より、ザビーというキャラクターが使う必殺技。ジャイアン的な不快な歌で攻撃するときの歌詞。

長曾我部兄貴・・・同じくBASARAより、キャラクター長曾我部元親(ちょうそかべ もとちか)のこと。毛利元就のライバル。

工藤新一・・・コナンの本名。


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