[ 第2回 ジャーキーズ・エンジェル2・1 ] マネージャーなんぞ、やってたまるか。 こちとら重要な極秘任務を請け負う特殊工作員という名のパシ・・・もとい、正義のヒーローなのだ。 何が楽しくて放課後を無償労働にささげなくてはならんのか。 意味が分からない。(マネージャーを全否定) ともかく逃げるが勝者である。 掃除の出来具合をチェックした先生から「OK、お疲れ様」の挨拶を頂き、「よし、レッツ・ザビー!」と意気込んで資料室から去ろうとすれば、ぐんと耳を引っ張られた。 Bダッシュほどの勢いが付いていたため、耳はめいいっぱい伸びた。 ミシミシッとか聞こえたのは気のせいじゃない。 「いだだだだだだ!!反則!反則!リンパ吹き出す!」 「・・・俺、越前リョーマ。ねえ、じゃあ放課後の練習に来てよ。お試しってコトでさ。いいでしょ?」 し つ こ い 。 な、なかなか諦めてくれない! こんなに熱心に部活に勧誘されたのは初めてだ。しかも男子に。 それにしても中学生の分際で男子球技部が女子マネなんて、なんと生意気な。 許されるのは高校からよ! 男テニなら男テニらしくむさ苦しい男マネージャーにタオルもらってればいーんだよ!男誘え!男!! 「あっ、ごめ〜ん先生に呼ばれてるんだ転入の手続きが何とかって!(適当) じゃ、ばいば〜い、お疲れさまー!」 「あ、ちょっと・・・チッ逃げた」 舌打ちなんて聞こえないもんね! 未だに耳を掴んでいる指を手刀で切り離し作業に移行。 逃げるように(実際に逃げてるんだが)職員室前へと走り出した。 [ 第2回 ジャーキーズ・エンジェル2・2 ] 資料室からの道、人が多くて助かった。さすがに追ってこれないだろう。あー怖かった。 えーと、たしか此処の上の階の・・・うん、左曲がってすぐだ。 そう思い、階段を数段上りつつ何気なく上を見上げたら、ダンボールに入りきらないほどテニスボールを積んだ女子生徒が見えた。 部活ジャージ・・・女テニかな。 あぶなっかしいな・・・あ、そんなに急がなくても・・・と思ったら案の定つまずいた。しかも踊り場―階段の一番上で。 え、ちょ・・・この角度は・・!! 「きゃあぁ!どいてぇーっ!!」 襲い掛かるボールの嵐。 「ほげえええええ!?ゴブッ」 ワン・ツー・側頭キャーッチ!(ぶつかっただけですよ!) 重力効果で、まじシニそうなほどイタイです。 階段登る前で本当良かった。 でもね、まだまだこれからいっぱい降ってくるんですよ。 ちょ、テニスボールで頭蓋骨陥没とか嫌だからね!? しかし、今は私より彼女だ。 慌てすぎたのが災いしたのか、踊り場からすぐ、前のめりで落下している。受け止めたいのは山々だが、視界がボールでいっぱいで座標がうまく測れない。 というか、私も自分だけで精一杯です。 あ、まずいかも、これは。 頭蓋骨どころか、全身―最悪顔面の骨を砕くかも分からない――「あぶな・・!!」 想像していたものより数段柔らかい衝撃とともに、視界が真っ暗になった。 ボールが延々とバウンドする音が下の階にまで響く。 「・・・君、大丈夫?」 「え」 目を開けると、そこには天使が居ました・・・。 [ 第2回 ジャーキーズ・エンジェル2・3 ] て、天使さま・・・!! 目を開けると、いつのまにか、私は見目麗しい少年に庇われて助けられていた。 少し長めの色素の薄い短髪が、窓から差し込む午後の木漏れ日に暖かく照らされている。 う、うつくしい・・・! ・・・こ、この人が『エンジェル』だ!間違いない!間違いない! 顔が近かったこともあって、一瞬思考が吹っ飛んでいた。 「あ、ありが、っ!!」 言いかけて、ようやく思い出した。 お礼もそこそこにその人を引き剥がして、ふらつきつつも立ち上がる。 ・・・さ、さっきの子はっ!? 血濡れの惨状を予想して、女の子が落ちたであろうボールだらけの床にそっと目を向ける。 「はあああ〜っ、び、びっくりしたぁっ!!」 ・・・あらっ? 「あ・・・ご、ごめんなさい!!大丈夫でしたか!?うわあうわあうわわ、どっかぶつけてないですかぁっ!?イタイですかーーーっ!?」 「え、あ、大丈夫ですけどっ!?(あんたが大丈夫!?)」 「ほ、本当!?ちょっと当たってなかった?本当ごめんね!ごめんなさいっ!!」 ボールを落とした少女は、よく見ればさらさらのロングヘアが眩しい、華奢な美少女だった。 ・・・しかし中学生の癖に出るとこ出ている・・・・うおわ、か、可愛い子〜・・・・・・じゃなくて。 え、今ので無傷って。 ・・・うそだろぉ・・・人間じゃナーイ。 というか、なんで平然と階段の下に居るんだ。踊り場から落ちたのに。・・・人間じゃナーイ。 「・・・無事か、アマネ」 「は、はい〜、手塚部長のお陰で・・・ありがとうございますー」 「怪我はないか?」 「はいぃ、大丈夫ですー」 「そうか。なら、ボールを片付けろ。誰かが怪我をすると不味い」 「はーい、わかりましたぁ」 どうやらこの少女はこの手塚部長なる人物に見えないところで助けられていたようだ。 何はともあれ、怪我人が出なくて良かった。 あのままタイルの下はすぐコンクリのこの床にたたきつかられては、頭も割れる。 「よかった。アマネも無事みたいだね。君も、怪我はない?」 ようやくため息がつけたところで、命を救ってくれたにも関わらず、そんざい扱ってしまった大天使様の存在を思い出した。 [ 第2回 ジャーキーズ・エンジェル2・4 ] 慌てて怪我がないことを説明し、お礼を言っていたのだが、座り込んだままだったのが目に留まったのだろう。 手塚部長と呼ばれていた彼が、少し緊張した様子でこちらに近づいて、声をかけてきた。 「なんだ、怪我をしたのか?不二、何なら俺が医務室まで送るが」 「ああ、怪我はないって。びっくりしちゃっただけみたい」 「本当か?」 「は、はい。大丈夫です」 「そうか・・・なら良いが」 「ああ、そうだぁ!謝らなきゃ! 本当にごめんね・・・ギャッ!」←ボール踏んでこけた 「アマネ、静かにやれ」 「・・・はぁーい・・・・・」 今、ようやく気付いた。 そういえばこの人、職員室で見た中学生に見えないフケ・・・大人顔のテニス部部長だ。職員室じゃ、後姿をちらっと見ただけだから気づかなかった。 ということは、当然ながらこの大天使美少年もまだ中学生か。 今時の子供って、本当発育いいなあ・・・分けろよ・・・。 「えと、本当にありがとうございました。あの、そちらこそ、怪我とかは・・・スポーツマンだし・・・」 「いや、問題ない。うちの部員がすまなかったな。・・・・本当に医務室に行かなくていいのか?」 「そうだよ。今は気づかなくても後から痛んでくることもあるし、一応診てもらったほうが・・・」 「いや本当!大丈夫ですんで!!」 その後、ボールを拾うのを手伝って二人とは別れた。(女の子からは何回も謝られた) どうやら女の子は男子テニス部のマネージャーで、同じテニス部の男子部員の2人が偶然通りがかっただけだったらしい。 本当に危なかった。自分の強運に感謝。 あの後は部長にダンボールを持ってもらったようだし、過ちが繰り返されることはおそらく無いだろう。多分。 [ 第2回 ジャーキーズ・エンジェル2・5 ] ・・・って、待て。 ・・・男テニ? なんだ、女子マネージャー居るんじゃん。 いや、でも、あの子だけじゃ確かに人手が足りない・・・っていうか、不安かも・・・・何か明らかにどじっ子スキル発動してたし・・・・。 ・・・何にせよ、勧誘から強行突破で逃げてきて良かった。 ≪迫るぅ〜 ショッカァ〜 地獄のぐーんーだ〜ん≫ 「あ、ジャッキー」 この着うたはジャッキーだ。特に選曲に意味は無い。 周囲を確認し、声の響く廊下と階段を警戒して声を抑える。 「はい・・・えーと、『武藤ユウギ』ちゃんでーす」 この名前にも随分慣れたものだ。 『やあ、ユウギ。喜びたまえ、初任務だぞ』 「え!!ま、まじで!とうとう!?」 いい加減、待機は飽き飽きだ。 いや、何もないに越したことは無いのだが、それだと中学生になった意味が無い。 『詳しい話は追って話そう。・・・いいか、ユウギ・・・いいや、私のエンジェル。君の最初の任務は・・・』 「任務は・・・?」 『男子テニス部マネージャーになっ』 ピッ とりあえず、切ってやった。 |
【マニアックすぎてよく分からなかった人のための親切な解説】
「レッツ・ザビー!」・・・戦国BASARAにおける暴力ほぼ人外宣教師ザビーとその信者たちが口にするかもしれない言葉。
Bダッシュ・・・ゲーム機のコントローラのBボタンを押しながら移動することで、通常よりも速い「ダッシュ」状態で移動できること。(wikipediaより)
≪迫るぅ〜 ショッカァ〜 地獄のぐーんーだ〜ん≫・・・初代仮面バイク乗りのオープニングテーマより。