説明しよう。
 『エンジェル』とは、神(自称)に選ばれた4人の御使(みつか)いのことである。
 彼女たちは世界護るため、下界に降臨した天使なのだ。

 元々ただの人間だった選ばれしエンジェルたちは、天使の力を得て無条件で半強制的に変身し、悪からを人々を護る正義の味方。
 いわゆる神のパシリ、良く言えば派遣社員のようなものである。

 因みに自称神のコードネームはジャーキー。
 それぞれの信念を胸に、彼女たちは今日も戦う。




[ 第1回 ジャーキーズ・エンジェル・1 ]

 エンジェルは4人。
 平たく言えば神の為に働くパシリであるエンジェルの椅子は4つであり、何らかの理由で前任のエンジェルが任務を続けられなくなった場合、新しいエンジェルが決められる。
 選考については神・・・ジャーキーの独断であるらしいが、時が来れば素質があるというか選ばれた人間というぴったりの人材が現れるのだという。

 因みに私、はこの度めでた・・・いのかは分からないが、新任のエンジェルとなった。
 エンジェルそれぞれ事情があるらしいが、私、正確に言えば私の家族はジャーキーから経済的な支援を受けている。
 実は家に相当な借金があったらしく、このままでは私は第二のクロサギに・・・・と身震いした所に聞こえてきたのだ、神の声が。

 借金の肩代わり、家族全員の老後その他の生活費医療費の十二分の保障を条件に、私はエンジェルの椅子のひとつを受け取り、『49代目ラファエル』となった。
 49、死苦・・・なんだか数字が不吉だが・・・・まあ仕方ない。

 『家庭内の事情は申し訳ないが調べさせてもらった』と話すジャーキーに、『新手の詐欺か』と当初はかなり身構えていた。
しかしあらゆる名探偵L的な証明及び多々の過程ですっかり信用してしまい、トントン拍子で話が進み・・・結果、私は奉公に出されてしまった。
 よくよく考えれば、私を犠牲に、否、引き換えにして家族全員もれなく一生涯保障を得たようなものだ。こちとら命がけで戦わなきゃならんというのに。理不尽な話だ。

 しかし今までの死が背後から忍び寄る生活に比べれば、辛いことは今のところない。
 ジリ貧ダンボールハウス目前だった私たちにとって、ジャーキーの施しはまさに神の恵みだったのだ。
 三食お茶漬けはもう勘弁願いたい。(米と汁物がいっぺんに摂れるという、母曰く合理的なメニューだ)(この家はもうダメだと誰もが予感した)

 ただし、父曰くもう日本じゃ怖くて安心して暮らせないとのことだったので(一体どこから借りたんだ、金)、私以外の家族は世界中を転々としてもらうこととなっている。
 殺伐とした話だが、蓋を開けてみればただの世界旅行である。
 娘が女学生から神の奴隷にクラスチェンジしたというのにいい気なもんだ。たまに日本に帰ってはくるらしいが。
 浮かれまくった電話が来た日には家族への支援をやめるようにジャーキーに要請しようかと思ったが、そこは我慢だ。

 聞けば、一週間から数ヶ月単位で世界中を転々とするらしい。いよいよキラ捜索本部だ。
 逆に怪しまれるのではないかと思うが、まあ、そこは神。
 どうにでもなるのだろう。と、思いたい。

 ジャーキーと繋がるものは、携帯電話の中にはいっているアドレスのみ。

 そして世界的な有名人であるために、生活の中では『神』ではなく『ジャーキー』と呼ぶように言われている。というか言われなくてもそうする。私は魅上になりたくない。

 それにしてももう少しマシなコードネームはなかったのか。
 電話で問い詰めれば『友達のあだ名とでも言うのにちょうどいいしねッ☆』と軽いノリだ。
 他のエンジェルにもそう呼ばれている、らしい。確かにばれ難いだろうけれども。

 ・・・ジャーキーズ・エンジェル。
 語呂はいいが、何か嫌だ。

 ―――さて、というわけで脱・貧乏生活となった新米エンジェル・
 ひとえに借金返済のため、今日も私は進むのだっ!
 出発進行!!



[ 第1回 ジャーキーズ・エンジェル・2 ]

 晴れてエンジェルとなり、ジャー・・神の指示通りに引越し、転校してよし来い準備万端!
 となったのだが、ジャーキーからの仕事の要請はまったくなく、他のエンジェルとも顔をあわせる機会もなく数日が過ぎた。
 新しい生活に慣れるのを待っててくれたのだろうか。どちらにせよ、初日に比べれば一人暮らしには随分慣れた。

 しかししかししかし昨日、二週間ぶりにかかってきた電話によれば、『近いうちに他のエンジェルの2人との接触があるだろう』との話。
 現在のエンジェルは私を入れて三人。
 つまり、私のチームメイツとのご対面である。

 だがエンジェルの椅子はラファエル、ウリエル、ミカエル、ガブリエル、4つだという話なのに、私を入れて3人とはどういうことか。
 これについても電話で問い詰めたのだが、

 『ハハハ、実は『ミカエル』は過去一度も椅子に適う人間が現れなくてね。未だに空席なんだ。いわゆる永久欠番というやつさ!』
 「それは違うと思う」

 色んな意味でな。

 ともかくそういうわけなので、任務はそのチームメイト天使2人と協力して行うこととなった。
 ようやく任務ができる!特殊工作員みたい!わくわく!と 浮かれすぎて、また同時に心配も募って、うっかりジャッキーの話を聞き流してしまったが、平常心平常心。
 と、思っていた矢先の一言だった。

 『・・・、悪いがは今日で居なくなるものと考えてくれ』

 「・・・遠まわしな殺害予告ですか?」

 『天使となる以上、人間の名を捨てなければならない・・・つまり、これからは本名を明かさずにコードネームでやっていって欲しいということだ』

 「あー、なるほど。それって私が考えるの?」

 『いや、こちらで考えてある。我ながら傑作だぞ。何せ、二週間もかけて考えたんだからな』

 まさか今日までずっと暇をもてあましていたのは・・・!!

 「、今日から君はエンジェル『武藤ユウギ』だ!」

 ユウギって・・・女の子の名前じゃNEEEEEEEE。

 「絶望した!! 神のネーミングセンスに絶望したああああー!!」

 『ああ、それと・・・いや、ユウギ。 明日から青春学園に通ってくれ』

 ・・・・・。
 言うの、遅いよ・・・。



[ 第1回 ジャーキーズ・エンジェル・3 ]

 学校に通っての任務だったら、もうちょっと前からそこに通うようにしてくれないか、ジャーキー。色々急すぎる。
 とりあえず、こんな偽名くさい名前で大丈夫なのか。バレないのか。
 まあ、ジャーキーの横暴の数々は今に始まったことじゃないし、良くないけど良いとしてだ。

 目の前の校門に輝くは『青春学園』の文字。
 学ランとセーラー服がまぶしいです。
 そして、たびたび目にする男子生徒の身長の異常さに気付いて、またひとつ発見する。

 ・・・ジャーキー、私、大学生なんだけどな。
 ここ、中学校なんですけど。
 なんの手違いだ、おい。
 教育実習生の方がまだいけると思うんですが、どうなんだ。
 いや、そういう問題じゃないだろう。おちつけ、私。

 もちろんあの後、再び電話をかけてきたジャーキーに問いただしたが、間違いではないらしい。この中学校で。
 また高校生かーーマイボスマイヒーローみたーい☆なんて考えていた私が甘かった。
 まさか高校どころか義務教育リローデットに処されると誰が予想出来ただろうか。

 もちろん全力でジャーキー食って掛かったが、
 『中身が大学生の君ならテスト前に勉強しなくていいし、ラクチンじゃないか』
 の言葉にそれもそうですねラッキー☆と納得してしまい、通話ボタンをきった瞬間に我に返って、のたうちまわって後悔することとなったのは言うまでもない。

 さよなら、青春の大学キャンパスライフ。
 こんにちは、青春学園。 それにしても何つー学校名だ。



[ 第1回 ジャーキーズ・エンジェル・4 ]

 ―というわけで、「大学生ライ〜フ☆あれっ以外と、し、しんどいんだけど・・・大学楽とか言ってるやつ誰だ」とかいう時期に、給食世代へと逆行することになったのだ。
 ショックである。大ダメージである。
 とりあえず青学に給食は無いということはこの際関係ない。
 むしろそこはちょっと嬉しかっただけにかなりガッカリだ。

 手続き、引越し等は終わり、無事転入も出来た。
 微塵も疑われませんでした。何故。
 私ホントは大学生よ。 そりゃ、チビで、ど、童顔かもしれませんが・・・!

 始終、内心ビクビクものだったが、その時職員室に入ってきた男子テニス部部長という男子生徒を見て妙に納得しました。今日はエイプリルフールじゃないよ。

 まあ自称とはいえ神であるジャーキーの手回しがあったからだろうけどさ。
 いや、その是非ともその所為であれ。

 こうした経緯で無事、青春学園に転入し、私、改め武藤ユウギは、

 ピッカピカの 一 年 生 となりました。

 ・・・よりによって最低学年かよ!せめて3年にしてくれ!
 絶望する暇もなく、私のなんちゃって中学生ライフ・フルスロットルは慎ましやかに幕を開けたのだった。

 「ま、公立中学出身だったんだし、この際私立中学校を楽しもう・・・」

 何事も前向きにいかなければ。
 ちなみに私以外のエンジェルは既に学校に潜伏済みらしい。

 「・・・・まさか私以外のエンジェルが2人ともピッチピッチの中学生・・・・なんてことは、ないよね・・・?」

 守秘義務がなんとやらと言い訳されて、ジャーキーは『本人に会って聞け』の一点張り。
 他のエンジェルについては殆ど知らされていない。

 ああ、何故顔も知らない自称・神のためにこんな扱い受けなきゃならないんだろう。ぶっちゃけウチが貧乏な所為なんですけどね。
 一抹の不安とともに、まだ見ぬ仲間に思いを馳せるのだった。



[ 第1回 ジャーキーズ・エンジェル・5 ]

 私の班は資料室の掃除が割り当てられていていた。
 私立の癖に掃除があるのか。チッ、貧乏私立め。

 「適当に片してさっさと帰ろー。ああそういや放課後なんかまた職員室呼び出しくらってたなー」と考えている最中のこと。

 「・・・・・ねえ、アンタ」

 「はい?」

 「ちょっと、話あるんだけど」

 じゃんけんで見事負け、この中一男子と二人っきりで薄暗い資料室の中。
 古紙を紐で縛る作業をもくもくと続けていたので、ぽつぽつ話しかけられていたにも関わらず正直話半分だったが、突然真剣な表情で話を切り出された。

 ・・・この流れは、まさか!

 (仲間のエンジェル・・・!?)

 「っ、な、何・・・?」

 「・・・アンタさ、マネになんない?」

 ・・・。

 「は?」

 「だから、マネージャー。今、人足りてないんだよ」

 つまり「部活のマネージャー」になれということらしい。
 ・・・。
 はーずーれーかーよー。

 「あー、ごめん。帰ったらBASARAしなきゃなんないんし、無理」

 どういう断り方だ、とは思ったが、だってワタシ、元大学生。
 相手は中学一年生。中坊である。
 同じ世代の人間ならともかく、ガキ相手には悪いが容赦ない。
 日々、確実にジャーキーに性根を蝕まれている。決して『元から』ではない。断じて。

 「は?バサラ?」

 「うん。ごめんね?」

 「・・・バサラって何「あっ、コレで最後ー!?せんせーっ、終わりましたぁー!!!」

 だって相手は弟とさほど変わらぬチミッコである。
 口惜しいことに、今頃向こうは無期限バカンスなのだ。変な情(悪質)が移っても無理からぬところである。
 例えそれが、ちょっと屈曲した妬みであったとしてもだ。

 もちろんこの男子に恨みはない。
 が、転入早々にして、

 「ユウギちゃんってリョーマくんの隣だね、いーなぁー。あ、あのねあのね、リョーマくんって帰国子女なんだって!アメリカ帰り!英語、すっごいペラペラなんだよ、発音だって先生よりすごいもん!かっこいいよね〜!!キャー!しかも部活で一年生なのに(以下省略)」

 ―という話を耳にしたため、彼に対するファーストインプレッションは、
 こ の ニ ュ ー ヨ ーク 野 郎
 だった。 (別にニューヨークから帰ってきたという確証は無い)

 別に帰国子女に恨みは無いのだが、いかんせんタイミングが悪かった。
 ちょうど昨日、今度はニューヨークにいます、といつもの家族からの(しかも何の因果か家族を代表して弟が全員文代筆)自慢はがきが来たばかりで、過剰反応せざるを得なかったのだ。

 アメリカのアップルパイとハンバーガーは安くてでかくて美味くてハズレがないそうです。畜生。



【マニアックすぎてよく分からなかった人のための親切な解説】

クロサギ・・・詐欺によって家族をめちゃくちゃにされた少年が、詐欺師を騙す詐欺師「クロサギ」として活躍する漫画。

ジャーキーズ・エンジェル・・・もちろん有名な洋画タイトル、チャーリーズ・エンジェルから。

L・・・実写映画化もされた漫画デスノートに登場する名探偵。

魅上・・・同じくデスノートに登場する人物。秩序を与える神であると同時に大量殺人鬼である「キラ」を崇拝する。

「絶望した!○○に絶望した!」・・・漫画さよなら絶望先生の主人公のキメ台詞。

武藤ユウギ・・・漫画「遊☆戯☆王」の主人公、武藤遊戯(♂)より。この世界にはこの漫画はない。

マイ☆ボス マイ☆ヒーロー・・・足し算もできないヤ○ザの次期ボス候補が高校に一年だけ通い、卒業する笑いアリ恋アリ涙アリの青春ドラマ。

戦国BASARA・・・某敵将討ち取ったりゲームに喧嘩を売った上にヒットしている、巷で話題のスタイリッシュ(ギャグ)アクションゲーム。


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