【1】女子中学生とは仮の姿! ユウギはあっけにとられ、少女に手を引かれるまま流されるままに校舎裏へとたどり着く。日当たりがよく、木漏れ日が気持ちいい。昼食をここでとれたらさぞや素敵だろう。 そこには一人の女生徒が腕を組んで待ち構えていた。 お嬢様風のロングヘアの少女だ。きりりとした目元と髪を彩るリボンが印象的で、女の子らしさを際立たせている。 「素子先輩っ、容疑者を連行しました!」 「よくやりました、南さん」 クラスメイトの口調から察するに、先輩らしい。 「容疑者……?」 未だに話は見えないが、ユウギはひとまずピンチを切り抜けられたことを素直に喜んだ。 「貴方、私たちに何か言うことがあるんじゃありません?」 しゃべり方までお嬢様だ。つんとした口調で腕を組みなおす先輩生徒。 今こそ後輩の立場だが、実際は年下だと分かっているせいだろうか。ユウギには背伸びしている子供のようで、可愛らしく思えた。 「そうですね。この度は助けていただいて、ありがとうございました」 ごっこあそびのような気恥ずかしさをごまかす為に、ユウギはぺこりと格式ばってお辞儀をした。 「助けて……?」 二人の女生徒は首をかしげる。ユウギはミスに気づいて、あわてて訂正した。 「学校を案内してもらえるなんて光栄ですっ!ありがとうございます本当に!!」 「やぁだ。そんな嘘、まだ信じてたの?聞きました、素子先輩?とんだ世間知らずのお嬢ちゃんですよ」 「全くです、南さん。 武藤さんといったかしら。いいですか。耳の穴をかっぽじって、よぉくお聞きなさい」 ようやく台本どおりにことが進んだ。少女たちはそんな様子で芝居がかった台詞を交わした。 「会長、皆川 素子!」 びっ、と何らかのポーズをとる素子。 「副会長、木之下 南!」 同じく何らかのポーズをとる南。 「私たちは何を隠そう…… 男子テニス部ファンクラブ『テニスの王子様』!!略して『プリ・テニ』なのです!」 ユウギはエッと驚きの声を上げた。 「『プリ』はどこから来たんですか?」 「つっこみどころが間違ってますが、一応説明しましょう」 素子は『テニスの王子様、つまりプリンス・オブ・ジ・テニス』だから『プリ・テニ』なのだと語った。 彼女たちが言うに、この学校の男子テニス部は見目麗しい王子様的カリスマばかりらしい。それに憧れ恋焦がれ、陰ながら応援する。時には不埒な輩から王子たちを影に日向に守る。それがプリ・テニなのだ。 会員もかなりの人数らしい。端折って聞くだけで、本格的でパワフルかつアクティブな組織だと分かる。穏便に話を進めるつもりだったため、この度はトップの二人だけで呼び出したのだという。 しかしユウギにはそれが自分と何の関係があるのかまでは理解できなかった。 「プリ・テニについては良く分かったけど、それが私にどう関係あるの? ひょっとして宣伝?勧誘?ノルマでもあるの?」 そうだとすれば、説明がつく。中学生世界だというのに、一気に悪徳商法だ。 「違うわ!ま、考えを改めるなら仲間にしてあげないこともないけどね。あたしたちは親切だから、忠告してあげてるの。 単刀直入に言うわ。リョーマくんに近づかないで!」 南は指差す右手をユウギの眉間にくっつくほど近づけた。ここでようやくユウギは得心がいった。 「リョーマくん、テニス部だったんだ」 「転校早々名前呼び!?」 「聞きました!?聞きました素子先輩!」 「武藤ユウギ……恐ろしい子!」 少女漫画のようなポーズでショックを受けたと表現するプリ・テニの二人。言動一つ一つに粗を探されているようで、ユウギは居心地の悪さを感じた。 「転校早々だから、苗字が分からないんだよ……」 自分の釈明の言葉だというのに、ユウギは言い訳くささを感じた。恋する乙女に勝てる気がしない。 一方的な話し合いはあっという間に終わった。プリ・テニの二人は嵐のように去っていった。 ユウギはいつの間にかリョーマに必要以上に話しかけないなどいくつかの約束をさせられていた。釈然としないが、リョーマ本人に問いただされてもこれで言い訳はつく。 ユウギはポジティブに考えることにした。 ナイトメアの支給品であるオペラグラスは、一人の少女を捕らえた。ディストはにんまりと笑みを浮かべる。 「見つけましたよ、エンジェル!」 一見、少女は直江に圧勝して見せた映像の人物とは別人だ。衣装はもちろん、身のこなしや顔つきも違うように感じた。 しかしエンジェルには御家芸・変身がある。あとは悪魔の第六感といったところだろうか。外見は違うが、デイストは例のエンジェルだと断定した。 校舎の屋上から捜すのは正解だった。ディストは自分に賛美の言葉をくどいほどうたいあげる。 「ハーッハハハハ、見てらっしゃい!すぐに私のカイザーディストNでけちょんけちょんに…… おっと、私としたことが忘れてました。肝心の動力を確保しなければ」 オペラグラスでエンジェルの近くを探ると、浮かれた様子で歩く二人の女生徒がいた。 「完・全・勝ー利!」 南は晴れやかな笑顔でガッツポーズを決めた。 「上手くいきましたね、素子先輩!」 「ええ、これも私たちの愛の力。あの生意気な転校生も身の程を思い知ったことでしょう」 素子はうっとりと手のひらを頬に寄せ、空いた手でガッツポーズ。 二人は王子を守れた勝利の余韻に浸っていた。たくましいお姫様である。 その背後に、黒い影。 「ずいぶんと楽しそうですね」 にやりと笑う、奇妙な格好の妖しい男。お世辞でも健康的とは言えない風体。二人は一瞬で危険人物と判断した。 「超天才のこの私に協力していただきますよ」 「キャー変質者ああああぁ!!」 身を寄せ合い、南と素子はステレオで叫んだ。 「ムキーッ!!こんなに美しい私になんって無礼な!ええーい、これ以上貴様らと話すことなどなーい!」 トランプのようなカードを取り出すと、怪しい男はそれを天に掲げた。 「いただきますよ、貴方たちの魂を!」 悲鳴と共に、少女たちは姿を消す。 カードには、消えた少女たちが牢獄に閉じ込められている様子が浮かび上がった。 二人の少女の悲鳴は、近くをランニングで通った女子テニスの声だしによってかき消えた。 |