【1】女子中学生とは仮の姿!

 私は武藤ユウギ。
 背が小さいことがコンプレックス。身に纏うのは有名私立中学校の制服。通学鞄を抱えてバスから降りる姿は一見普通の女の子。だけど、実は私には秘密がある。
「ああ、ちょっと待ってお客さん!小学生は半額でいいんだよ」
「あ……ありがと、ございます……」
 ……私は、高校生だーーー!!
 ついでに言うと秘密探偵なんてやってます。ちなみにこれは一般人を装うための変装。上の命令です。しぶしぶです。ここ大切。
 かつての人としての名は契約のために捨てました。今や私は秘密探偵ジャーキーズ・エンジェル『武藤ユウギ』。つまりコードネームです。基本だよね!


 これまでのあらすじ。
 それはまだ彼女が平凡な一般庶民だった時のことである。その日、良く晴れた平日の昼の住宅地は人通りが少なかった。彼女はいつものバス停の前で、いつものバスを待っていた。そこに現れたのが魔法少女と若い男だ。
「俺は悪魔!そして俺は無敵ぃー!!」
 男は戦国武将風の甲冑を着ていたが悪魔と名乗った。魔法少女は怪我こそないものの、ふらついていた。斬りかかった男の日本刀を魔法の杖が受ける。しかし力で押し負けた魔法少女は吹き飛ばされた。バス停の前で呆けている少女に向かって。
 そして彼女の手に合ったポータブルゲームは無残に砕け散った。
「……えーと」
 彼女はゲーム大好きなごく普通の日本人。今日もバス停で時間の有効活用。つまりバスを待ちながらゲームをしていた。厳しい条件をクリアし、とうとう隠しステージに入るぞ!入った!キタコレ!というまさにその瞬間、ゲームハードがクラッシュ。魔法少女に巻き込まれて砕け散った。
 金髪ド派手魔法少女は目の前で倒れたままぴくりともしない。変身がとけたようで、いつの間にか髪の色は銀に変わっていた。変身が解けた姿も十分に派手だった。救急車を呼びたいところだが、携帯電話も小銭もない。
 そしてここで鳴りだす魔法少女の携帯電話。

≪サツガイ サツガイせよ サツガイ サツガイせよ (KILL! KILL! KILL! KILL!)≫

「なにこの着メロ!!これ本当に魔法少女の携帯!?」
 つい魔法少女の携帯電話にでてしまう。通話相手は松平片栗虎と名乗る謎のおっさんだった。探偵事務所の所長らしい。
「あー悪いが、何も聞かずにおじさんの話を聞いて欲しい。その場で変身と言ってみろ。そしてその悪魔と戦え」
「変身……ええ!?
 悪魔って、あの頭に『愛』とか書いてある、凄く直江兼続ぽい兜を被った戦国武将風の男とですか!?」
 つい復唱してみれば、あまりの無茶ぶり。そしていつの間にか彼女はシャランラ・シャランラ・ヘイヘヘーイといった具合に魔法少女的な衣装になっていた。
「……歳!!」
 すると悪魔は新たに現れた魔法少女を敵と認識した。そりゃそうだ。何せ、目の前で変身してしまった。
「新手か!俺は上杉ぐn……ではなく、ナイトメアの無敵悪魔!俺は無敵だ!貴様になど負けん!エンジェル、覚悟!!」
 気合の叫び声と共にこちらへ刀を向け走ってくる男。しかし彼女は訳も分からず巻き込まれた善良な一般市民である。身の安全のため、少女はきっぱりと無関係であることを主張した。
「ちょっ、こっちはただの一般人なんですよ!卑怯だ!」
「卑怯じゃない!俺は無敵!!」
「イヤー!誰かー!痴漢ー!!」
「痴漢じゃない!俺は無敵!!」
 痴漢に仕立て上げて助けを呼ぼうかと思ったが、誰も通りがからない。少女はナンテコッタイ、私オワタと頭を抱える。
 とにかく走って逃げて攻撃をかわす、を繰り返した。運動音痴が嘘のように体が動く。体が軽い。自分の動きが早すぎて、若干思考が追いついてこない。ほとんど脊髄反射だ。
 まさにデッドオアアライブ。ところが空気を読まない携帯電話は、おっさんの能天気な声を鮮明に伝えてくれる。
「オイオイ、頼むよ〜。ちゃちゃっと一発かましてくれ!今のお前さんなら何だってできる!おじさん保障する!」
 現場にいないことをいいことに、無責任なことを言い出すおじさん。何だってできるなら、今すぐここから安全な場所へワープしたいと少女は訴えた。しかし彼女のささやかな主張は無視された。おじさんは完全に説得の体制である。
「とにかく、お前さんが地球最後の希望だ!頼む、この星をまもってくれ!!」
「ええええええ!いつの間に地球の未来が私の双肩に!?」
 思わず少女の携帯が手から滑り落ちた。
 思わず体が拾おうと反応して隙が生まれる。しかし悪魔は待ってはくれない。大きな得物を抱えて、こちらへ迫る。
「ここで決めてやる!俺は無敵!うおおおぉ!」
 このままではナマス切りにされてしまう。少女は思わず悲鳴を上げて頭を庇った。
 その時、スピーカー機能なしで松平の叫びが少女の耳に届いた。
「こんなところで死ぬ気か!?
 思い出せ!お前さんのゲームはどうしてこうなった!?」
(本当にどうしてこうなった……。
 私の相棒……データ……私の600時間が……)
 少女の中から恐れは吹き飛んだ。怒りで力が漲ぎる。少女は頭を庇っていた手を退けて、吼えるように叫んだ。
「私のゲームを……返せええええええ!!」

「ぐあああああ! 無敵なのにやられたアアアァァ!!」
 気がついた時、少女は悪魔を倒していた。
 こうして新生魔法少女はよく分からないまま悪魔を撃破したのだった。
 回想終わり。


 秘密を知ってしまったということで、私は晴れてジャーキー探偵事務所の探偵――通称エンジェルになりました。ブラックホールみたいな組織ですね。断ると所長の松平さんに生物学的に消されそうなので勿論承諾しました。

 もちろんここはただの探偵事務所ではありません。悪の組織ナイトメアから地球の平和を守る秘密組織なのです。
 なんと松平さんの脅しは嘘じゃありませんでした。いきなりことは世界規模。RPGでよくある展開ですね。そりゃ変身も魔法もできるって話ですよね。我が家としては、ちょうど借金が返せず一家仲良くホームレス目前。最悪一家心中も覚悟しなければならない状況だったので大助かりです。
 所長曰く、私たちのボスの『ジャーキー』なる人物が借金を肩代わりしてくれたそうです。その上、家族の生活を保証までしてくれました。お金をくれる人は良い人です。結論を言うと、金の力パネェということです。
 ……え?冒頭で壊されたあのゲームを買う余裕がどこにあったって?友達が拾ったのを貰ったんですが何か?

 武藤ユウギ。これが私の新しい名前。
 組織のルールで、今までの名前とはすっぱりお別れしなくてはいけません。これからはジャーキーの恩に報いるため、世界の平和のため、じゃんじゃんバリバリ働く所存です。
 今日から新米秘密エージェント。新米……ああ、これからはお米が食べれる!やったね!

 なにはともあれ、ジャーキーズ・エンジェル武藤ユウギ。
 地球の平和のために頑張ります! 出発進行!



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